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紅葉の高揚

『ひゃっほーい、土曜日に蒼生(あおい)が来る。』


 御会(おかい)よ、御会(おかい)。月に1時間、蒼生と一緒にいられる。素敵時間(エンペラータイム)


 無事、男としての喜びに目覚めた紅葉(くれは)が、ベッドの上で枕を抱いてぐるぐると転がる。最近の紅葉の夜の楽しみは、蒼生のアレコレを想像しながら致す事であった。


『強引に、なし崩し的に、ロープで縛る。従順なのもいいわね。』


 想像するだけなら自由である。


 それにしても今日の蒼生も最高だったわ。紅葉は今日の蒼生との会話を思い出す。色素の薄い肌にやわらかそうなほっぺ、唇は桜色で、その奥には白い歯と真っ赤な舌がちろりと見えた。そこから(つむ)ぎだされる声は鈴のように心地よい。ちょっと垂れた優しそうな瞳。首は細く、筋肉が浮き上がるラインが(なま)めかしい。短く切った薄茶色の髪からはバラ科の植物に似た香りが漂ってきた。


 最高過ぎて思わず見入ってしまった。気を抜くとそのまま襲ってしまいそうでもある。うまく誤魔化せたとと思うのだけど、変に思われなかったかしら?


 しかし、よくよく考えると、今日の態度はまずかったわね。どうも蒼生を前にすると、意地悪したくなる。蒼生のしょんぼりとした顔をみると何故か元気が出るのだ。自分でも酷い女だと思う。いや男か。蒼生のか弱そうな態度が、私の嗜虐(しぎゃく)心をくすぐるのだ。


 本当はやさしくしなきゃと思うんだけど、素直になれない。多分だけど、甘えているのだ、蒼生は私が何をしても怒らないから。冷たくしても・・・、勝手な思い込みだ。


 まぁ、それは置いといて、今の蒼生は全てがかわいい。かわいいは正義。男の時はかっこいいが3割ぐらいは入っていたけど、今の蒼生はかわいいが10割だ。


 そのかわいい蒼生が土曜日に部屋に来る。しかも、その時間には誰もいない。もしかして大人の階段登っちゃうかしら?あー、本当にやばい。


『ふむ』


 今は私が男で、蒼生が女だ。ということは口説くのは私の役目という事になる。


 口説くには当然だけど、雰囲気が重要だ。自分も女だったから分かるが、雰囲気作りは本当に重要なのである。蒼生を生粋(きっすい)の女性と言っていいかは微妙だが、良い雰囲気を作っておいて損はないはずである。


 一番最初に浮かんだのは、満天の星空だ。我ながらベタだとは思う。ちなみに私の唯一の趣味は天体観測である。そのせいもある。しかし、流石にこの季節の16時に星は見えないだろう。それに蒼生はあまり(そら)に興味がないように見える。


 夕暮れ・・・もないか。清少納言によるとやはり夏といえば夜、月の頃はさらなりだ。というか、蒼生はこの部屋にくるわけだから、外の風景は結局関係ないじゃん。冷静になる。となると音楽か。


 まぁ、それで進めるか。冷静になった?ところでシミュレーションをしてみる。


部屋には当たり障りのない音楽が静かに流れる。


沈黙の時間、ふぃに目が合う二人。


静かに肩を寄せる。


"蒼生、君だけを愛している。"

甘く(ささや)く。


"紅葉ちゃん・・・。"

少しだけ涙がにじんだ蒼生の瞳。


そのまま口づけをし、ベッドに倒れ込む。


『コリャまいったね。』


 何度も言うが、想像するだけなら、自由である。そこまで妄想したところで、紅葉は有る事に気が付く。


『この部屋、臭くないかしら?』


 ベッドから起き上がり鼻を効かす。変な匂いはしない。一応、消臭スプレーを大量に()いたから大丈夫とは思うけど。でもこういうのって自分では気が付かないって言うし。


"この部屋少し変な臭いがするね。窓を開けようか?"


 蒼生にそんな事を言われたら私は生きていけないだろう。せっかく作った雰囲気もブチ壊しである。思えば、蒼生の部屋に行ったときは、変な匂いなんかした事がなかった。というより、いい香りしかしなかった。


『・・・・』


 スマホを取り出し、メッセンジャーアプリで紫雨(しさめ)にメッセージを送る。


>>>>>>土曜の午前中、少し用事があるから家に来て欲しいんだけど。


 直ぐに返事が来た。


<<<<<<えっ、めんどい。


>>>>>>あなたが欲しがっていたプニ()のフィギュアあげるわよ。


 物で釣るのは基本だ。


<<<<<<いいの?んじゃいくわ。でもどういう風の吹き回し?


 実に簡単である。まぁ、歩いて10分もかからない位置に家があるというのもある。


>>>>>>今回の件で色々世話になったから、私なりに感謝の気持ちを伝えたいだけよ。


<<<<<<何か怪しいな。変な事、考えてないでしょうね?


 私が男になったから警戒してるのかしら?残念ながら私のアレ(・・)は今のところ、蒼生関連でしか反応しない。


>>>>>>私があなたに興味があると思う?それに午前中は父親もいるから心配しなくていいわ。


<<<<<<なんか、それも失礼だけど、まぁ、いいわ。


 了承が貰えたところでアプリを閉じる。これで良し、紫雨には"炭鉱の中のカナリア"の役目を(にな)ってもらおう。後付けであるが、土曜日の朝に用事があったという言い訳も立つ。


『我ながら()えている。』


 この時の紅葉はそう思っていたが、のちにこの選択を後悔することになるのであった。

よければ、いいね。ブクマ。評価お願いします。

やる気が出ます。

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