四人四色
『ううう、最悪だ~~~』
微熱があるのと鼻血が出るので、医者に診せたら、排卵日だと言われた。排卵日って何?って聞くと、看護師が紙芝居を使って懇切丁寧に教えてくれた。どうも生理とは違うものらしい。保健の授業で習った記憶がない。いや、女子なら習っているのかな?
排卵日が終わると2週間程で生理が来るとの事。一応、子供が作れる体になったらしい。生理痛用の鎮痛剤が処方され。生理用ナプキン、おりもの用ナプキン、後は濃い色のショーツなどの準備をするように助言を受ける。
『子供ってどういう事、僕、妊娠するの?』
わざわざ奥まった位置にある病院のトイレに入り、鏡の前で自問する。この体での生活にも慣れてきたところにこの仕打ちである。否応なく自分の体が変わった事を思い知らされた。
周りは僕を女性として扱う。外に出たら当然のように女性として扱われる。また、最初の方はそうでもなかったが、最近ではクラスの中でもそんな雰囲気が出来つつある。
置かれた環境への依存度が上がり、自立心は下がった気がする。心ってやっぱり体につられるのかな?確か心理学に役割性格という言葉があった筈だ。人は社会上の与えられた立場によって、その役割に応じた行動や思考をとる事がある。という意味だったと思う。もしそうなら、徐々に心も今の性別に追いついてくるんだろうか?
目の前の鏡を見る。平凡な顔が映し出されている。16年間連れ添った顔だ。男だった時の面影がかなり残っている。
『どうせ女になるなら、紅葉ちゃんみたいに美人になれば良かったのに。』
・・・・考えるのはよそう。それに、面影があるので、性別が変わっても比較的クラスに馴染みやすかったというのはある。
トイレを後にする。足取りは二重の意味で重い。肉体的には、背が低くなって、筋力も減ったせいで、歩く速度が以前よりかなり落ちた。精神的には、言わずもがなだ・・・。
暗い気持ちで、トボトボと帰路についた。
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『ふぁ~~、最高の気分』
姿見の前で上半身をはだけたまま、シャドーボクシングの真似事をする。筋力があがり、身長も高くなった。クラスで私より身長が高いのは間島君ぐらいだろう。今まで馬鹿な男どもが戦争を起こす理由が分からなかったが、この体になった今ならわかる。力というのは持っているだけで使いたくなるものなのだ。
前はお父様の方針で護身術を習っていたが、今後はもっと実戦的な格闘技を習うのも面白いかもしれない。
『くくく、世界の半分をくれてやろう。』
そんな台詞も吐きたくなる。
まぁ、腰に邪魔なものがあるが、慣れれば大して気にはならない。というかこいつは、いつになったら活躍してくれるのだろうか。調べたらEDという病気があるらしい。医者は体に異常はないと言っていた。とはいえ心配ではある。
『どうやったら反応するんだろう?』
色々試したが、ピクリとも反応しない。知識としては興奮すると固くなるというのは知っているのだが・・・。興奮、興奮ねぇ。
男になったせいか、男を見てもエロい気分にはならなくなった。かといって女を見ても当然エロい気分にはならない。
『やはり蒼生かしら?』
こないだ、蒼生のおっぱいを想像したときになんだか心がムズムズした。
蒼生に好かれているという自覚はない。でも、一応は私の許婿、いや、今は許嫁の方か、でもある。頼んだら色々させてくれないかしら?
"しかたないなぁ、紅葉ちゃんは" 女になった蒼生が優し気な瞳で私を見る。
『あっ、死ぬわこれ。』
かってない、感情が私に湧き上がった。
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『おっす、おら灰斗』
名門、駒崎学院に通う普通の男子高校生だ。部活はバスケをやっている。ポジションはスモールフォワード。ルックスは控え目に言って良い方だと思う。実際にかなりモテる。中学の時は3人の女生徒付き合っていた。
けれど、高校に上がってどうも彼女を作る気分になれなかった。何度か告白はされたけど、いまいち付き合いたいとか、そういう気分にまでいかなかった。まぁ、勉強が大変なのとバスケが面白いというのもあったんだけど。
そんなある日、とんでもない事が起きた。2週間ぐらい休んでいた親友の家族から病院に来て欲しいと言われた。俺は慌てて病院に向かい。そこで衝撃の告白をされた。
親友が男から女に変わってしまったのだ。そして、その事実を知ったと同時に頭の中にある靄がきれいさっぱり消えていることに気が付いた。
俺が高校に上がってから彼女を作りたくなかった理由がそこにあったからだ。つまり端的に言うと理想の女性が目の前にいた。性別という無意識の壁が取り払われた事で、漸くその答えが分かったのだ。
『最高かよ』
今まで知り合った中で蒼生ほど気の合う友達は居なかった。冗談を言い笑い合う。お互いの気心が知れた存在。しかも、性別という垣根はもう存在しない。
気持ち悪いって思う奴もいるかもしない。でもそんなの知ったこっちゃない。言わせたい奴には言わせとけばいい。
『蒼生は絶対に誰にも渡さない。』
情けなそうに、恥ずかしそうに、申し訳なさそうに佇む、その姿を見た時に俺の心は既に決まってしまっていた。
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『自分が同性愛者だと気が付いたのはいつだったっけ?』
倉田 紫雨は考える。
小学校低学年の頃は普通に男の子が好きだった気がする。たぶん、小学校高学年からだな。その頃から急激に胸が大きくなり始めた。小学校でD、中学でE、今はFカップだ。順調に育っている。望んではないのに。
胸が大きくなった影響でよく男の視線を集めるようになった。気持ち悪い視線。やがて私はそれを嫌悪するようになる。その嫌悪は視線だけでなく、男全部に向くようになった。男に向かなくなった恋愛的な欲求は、同性に向くようになった。そんな感じなのだろう。
私のように性的マイノリティがパートナーをみつけるのは大変だ。好みの女性を見つけたって同性愛者である可能性の方が低い。
『ああ、神よ』
いや、神にも祈りたくなる。先日、クラスメイトの性別が変わった。それも二人同時に、一人は私の親友、もう一人は親友の婚約者。
親友の方ははっきり言ってどうでもいい、私はその人に恋愛的な興味はなかったから、問題はもう一人の体が変わった方の駒崎である。
率直に言えば顔も性格も超好みだった。問題は性別が"男"であった事だ。だが、今はその障害は存在しない。体だけが問題だったのだ。
精神的に男なら、女性である私を受け入れる土壌は十分にある。というより受け入れやすいだろう。しかし、時間が経につれ心が体に連られていく可能性は高い。その前に沼に落とさなければ・・・。
『蒼生君は私が貰う。』
紫雨はうっとりとした顔で、スマホに映った蒼生の写真を見た。
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やる気が出ます。