蒼生の平穏
「しかし、すげぇな。」
灰斗が教室の一角を見ながら言う。
「紅葉ちゃん?」
「ああ」
灰斗と同じ方を見ると、紅葉ちゃんが4人の女子に囲まれている。ハーレムに見えなくもない。というかハーレムにしか見えない。
「モテ度No.1の座を奪われた気持ちはどうですか?間島 灰斗さん。」
インタビュワーの真似をしながら聞く。
「まぁ、そうですねぇ~~、いわゆる一つの、いわゆるですねぇ~、体力の限界ですかねぇ~」
「分かりづらいっ、3点。」
ポンッと机を叩きながら、採点する。
「何点満点、何点満点?」
「100点満点。」
「厳しぃ~!」
「フフッ」
「ハハッ」
二人で笑いあう。灰斗は僕の親友で、公表前に体が変わった事を知っていた一人でもある。クラスでの協力者と言っていい。
性別が変わったなんて、突飛な公表から、3日が経った。ようやく少し気持ちに余裕が出てきたところだ。クラスメイトの態度もそこまで劇的に変わることはなかった。穏やかな日常と言えるだろう。
「まぁ、冗談はさておいて、女子はああいうの好きだよね。」
クラスの今のブームは紅葉ちゃんに少女漫画のコマと同じ台詞を言ってもらう事らしい。
僕がそういうと、灰斗が微妙な顔をしてこちらを見た。なんか、変に見つめ合う感じになる。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ちなみにブーム発起人の田中さんは輪に加わることなく教室の隅で大人しくしている。昨日、早退したみたいだし、まだ調子が悪いのかもしれない。
「ま、まぁ、駒崎の奴も良く付き合うよな。」
「そう、割と楽しんでいるように見えるけど?」
紅葉ちゃんはめんどうな事は引き受けるが、本当に嫌なら断るタイプだ。とういうか何だろう今の間は?
「そうなん?」
他人には分かりづらいののもしれない。
「灰斗もお願いしてやらせてもらえば?楽しいかもよ。」
「なんでやねん。」
「フフフ」
僕のおどけに、灰斗が良く分からないツッコミで返した。また笑みが零れる。
「・・・」
「まぁ、紅葉ちゃんは、元々、女子だから色々頼みやすいってのはあるかもね~~~。灰斗がモテなくなったわけじゃないので心配しなくていいんじゃない?」
実際に灰斗が告白されているのを何度か見たことがある。2年生でバスケ部のエース。身長も高い。顔も良い方だ。学業成績はそこまで良くないが、それはこの学校基準だからであって、一般的な平均からすれば頭も良い部類に入るだろう。モテない要素はない。
「いや、そんな心配してねーし。」
「そうなの?」
じゃあ、なんで紅葉ちゃんを見てたんだろう?
「っていうか、蒼生はどうなの?」
「どうって、何が?」
「あれ」
灰斗が紅葉ちゃんの方を指さす。
「?」
言いたい事が良く分からない。
「いや、蒼生もあの中に加わりたいのかなと・・」」
灰斗が紅葉ちゃんの方を見ながら、ボソリと呟くように言った。
「はぁ??いやいや、ないから。」
思わず変な声が出る。
「ああ、悪ぃ。変なこと聞いた。」
「・・・」
「でもさ、今の体は女子なわけじゃん。」
少しの沈黙の後、灰斗が付け加えた。
う~ん、僕に関していえば、体が変化しても、心は殆ど変化してないと思う。ああ、でも一つだけあるかな。男性の視線が苦手になった。特に胸の辺りに向けられる視線が・・・。女性はみんなこの視線に耐えてるのかな?そんな大きくないし、見て楽しい物じゃないと思うんだけど。
紅葉ちゃんを見る。普通は体が変化すれば、もっと戸惑いそうなものなんだけど、あっという間に状況になれてしまった。水泳の授業とかも普通に受けてたらしい。僕が一人でグランドをグルグル走ってたのとは対照的だ。既に男である自分を事を受け入れようとしている気がする。まぁ、それが、紅葉ちゃんとも言えるのだけど。
灰斗は僕があの輪に入りたいと思ってると考えたのかな?確かにメンタルが女性なら女子の輪に加わった方がいいのだろうけど。今のところはハードルが高そう。
想像してみた。紅葉ちゃんが、僕に甘い言葉を囁く。
『う~ん、嬉しいのだろうか?ときめくより、どちらかというと、困惑しそう。』
「心配かけたのかな?別にあの輪に入りたいとか思ってないから。」
正直な気持ちを言う。
「そっか。」
僕がそう言うと、灰斗は一言だけそう返した。そして、"本当に変なこと聞いた。ゴメン。"と付け加えた。
『なんで、ちょっと残念そうなんだろう。』
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やる気が出ます。