蒼生の受難
「ということで、知っている人もいるとは思いますが、駒崎 紅葉さんは男子に、駒崎 蒼生さんは女子に、という扱いに変わります。クラスの皆にとっては驚きかもしれませんが、騒ぎ立てずに冷静な対応をお願いします。」
担任の乾先生が、経緯を説明する。クラスメイトが一瞬ざわついたが、教師が"静かに"というと、すぐに落ち着いた。ここら辺は名門学校のいいところなのかな。
性別が変わるなんて珍事から3週間たった、それも2人も同時に・・・。当然、僕の親や紅葉ちゃんの親はひどく混乱した。すぐに病院に連れて行かれて、様々な検査を受けた。だけど原因は不明。結局、健康状態は問題ないとの事で、変更した性別のまま学校に復学する事が決まった。
学校は転校する事も考えたらしいが、無理がきくのと、何かあった場合に対処がしやすい事を考え、引き続き、駒崎グループが経営する学園に通う事が決まった。
『ううう、スカート、スースーする、こんな薄い布で歩いていて女子は平気なんだろうか。』
教壇に立たされていて、若干高い位置にいるのも気になる。隣の紅葉ちゃんを見上げると、涼しい顔をしていた。恥ずかしくないのかな?
「質問があれば、この時点で受け付けます。但し、後で二人に直接この事を聞くのは許可しません。二人も個々に聞かれると負担が大きいですからね。」
先生と相談した結果、公表の時点で質問を受ける付けるようにした。クラスメイトからしたって"性別変わりました。仲良くしてね。"では、納得できない部分も多いだろうから。
「・・・・」
暫く、沈黙が続く。教室の前方には担任の他、副担任と学年主任も詰めている。
「あの~、性別が変わったのは、手術か何かしたという事ですか?」
やがて、一人の男子が手を上げて質問した。
「いや、そうではない。原因不明なため、はっきりした事は言えないが、病気の一種ではないかと聞いている。病気と言っても2人の健康状態に問題はなく、伝染つる事はない。」
当然の疑問に教師が淡々と答えた。まぁ、手術を疑うのはわかる。ただ、僕と紅葉ちゃんの身長差がそれを否定している。性別が変わる前は僕と紅葉ちゃんの身長は同じぐらいだった。だけど今は20cm以上の差がある。僕が10cm縮んで、紅葉ちゃんは10cm伸びた。性転換手術で身長までは変わらないだろう。
「そんな病気聞いたことないのですが?」
同じ男子生徒が質問を返す。
「先に言った通り原因不明としか言えないな、世界での症例を調べてもらったが、同じ事例はなかったそうだ。この件で紅葉さんと蒼生さんには定期的に検査を受けてもらう事になる。」
世界にない事例という事で、当然、研究したいという人間もいるだろう。とは言え、僕たちにも生活がある。定期的に検査を受けるという話で折り合いがついた。
「別人という事ではないのですか?」
今度は女子生徒が恐る恐るという感じで質問する。
「うむ、様々な検査では、前後の二人は人間的に同じであると結論が出されている。それに、その疑問の答えは近くに居た君達の方が、追々分かってくると思う。」
別人説も疑うのはありえる。ただ本人からすれば、記憶の前後関係は明確だし、"同一人物です。"としか言えないのが本当の所だ。
「先ほど、変わった性別として扱うと言ってましたが、体育とかもでしょうか?」
また、別の女生徒が質問した。
「そうだ、体育や一部の選択授業は今の性別の方で受けてもらう。具体的には紅葉さんは男子の方で、蒼生さんは女子の方で受けてもらう事になる。」
教室がまたザワつく、多感な時期だそれぞれ思うところがあるんだろう。
「但し、更衣室は別々に用意する事としている。また、身体測定、健康診断も個別にやるようにする。皆や二人の負担は出来るだけ減らすようにしたいと考えています。」
先生がそういうとザワつきが収まった。自分たちにとって、一番クリティカルな所の疑問が解消されたからだろう。
「あの、いきなり別の性別として扱えと言われても切り替えが難しいのですが、僕達の接し方たとしても変える必要があるでしょうか?」
今度は男子生徒。
「そこら辺が難しいのはこちらとしても理解しているつもりだ、スクールカウンセラーとも連携していくが、生徒目線でも気が付いたことがあれば、こちらにも教えてほしい。当人同士も心配な事は多いだろう。傍からフォローしてくれるとありがたい。」
紅葉ちゃんの交友関係は広い。いきなり男子として扱えといわれても難しいだろう。それに僕だって少ないが友達はいる。いきなり女子として周りに扱われても戸惑うだけだ。周りだって気持ち悪いだろう。
「この先また性別が元に戻る可能性はあるのですか?」
別の男子生徒。
「それについては何とも言えない。ただ、医師の話だと、何度も似たような変化が起きるとは考えづらいとの事だ。まぁ、やはり分からないとしか言えないな。」
戻る可能性か・・・原因も分からないのじゃ対処のしようがない。それに本家では紅葉ちゃんが男になって喜んでいる人間もいるそうだ。というより、紅葉ちゃんのお父さんなんだけど。
「二人の婚約関係はどうなるのですか?」
違う女生徒が質問する。
「それは、今回の事と関係ないだろう。」
乾先生が簡潔に答えた。僕たちが婚約しているというのは学校では有名な話で、駒崎のしきたりも知っている人間は多い。大きな疑問が解消されつつあるので、質問がゴシップ的なものに変わったのかもしれない。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
質問が続いていく。
『しかし、なんかさっきから視線が気になる。そりゃいきなり性別が変わったのだから、興味を引くのは分かるけど・・・でも、それとは別の・・・』
目線を下に落とす。そこそこ大きい山が二つ見える。Cカップらしい。おっぱいって自分についてるとこんな風に見えるんだ。
『これのせいで、視線を集めてるとかないよな?元男の胸なんだけど。』
「これ以上質問がないなら、時間も押しているし終わりたいがいいか?」
「・・・・」
「では、終了したいと思う。二人はこれから検査があるから、授業に参加するのは明日からとなります。それから、情報や倫理の授業で習っているから大丈夫とは思うが、くれぐれもネット上での振る舞いには気を付けて下さい。」
乾先生が最後に忠告して、教室を出ていく。僕と紅葉ちゃんもそれに続いた。それにしても明日からか。
『どうなるんだろ』
先の事を思うと、凄く憂鬱になった。
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やる気が出ます。