紅葉の暴投
『男の魅力と言えば財力ね。』
幸い私の家は金持ちの部類に入る。もちろん、私が稼いだ金ではないけど、将来的には私が家を継ぐのだから実質、私の物と言って良い。
「お父様、取引よ。」
そういう経緯で私の銀行口座、いや、俺の銀行口座には300万程の残高がある。贈与税を恐れているようでは、でかい男はなれない。ちなみに、取引とは大学生になったら仕事を手伝うという約束をしたのと、言葉使いや振る舞いを完全に直す事だ。
運転手付きリムジンで蒼生の家の前につけて、呼び鈴を鳴らす。
「はい?」
ドアフォン越しに、(たぶん)蒼生が対応する。
「紅葉ですけど、蒼生君いますか?」
母親だと困るので、一応しっかり名乗る。
「紅夜ちゃん?ちょっと待ってね。」
バタバタと音がして、玄関のドアから蒼生が顔を出す。今日もかわいい。
「どうしたの?」
「出かけるわ、ぞ。」
「えっ!?」
「・・・」
「あ、うん、準備をするから少しだけ時間を頂戴。」
蒼生は上下スウェットという格好である。部屋着なのだろう。
「きちんとした恰好をするのよ。」
「・・・・・・分かった。」
パタリとドアが閉まり、10分程待って、再びドアが開いた。
『ふわぁああああああ。えっ、天使?』
玄関から出てきた蒼生を見て絶句する。蒼生は白のワンピースに身を包んでいた。完全に私を殺しに来ている。
「・・・」
「変じゃないかな?ダメだったら、別のにするけど。」
蒼生が恥ずかしがりながら、全身を見せる。若干、顔が赤い。
「・・・」
「やっぱり、別のにするね。」
私の沈黙を否定と考えたのか、蒼生が家に戻ろうする。それを捨てるなんてとんでもない。
「時間がもったいないわ、それでいいわぞ。」
早く、車に乗せなければ。
私がそう言うと、蒼生は"うん"と一言いって、素直に車に乗り込んだ。変に抵抗しないのが蒼生のいいところだ。
「どこに行くの?」
車が走りだすと、蒼生が聞いてきた。当然の疑問である。
「それより、その服どうしたの?」
蒼生の質問には答えず、質問を返す。直視できないので、窓越しに外の風景を見ている。気を抜くと破顔してしまいそうでもある。
「紫雨さんに選んで貰ったんだけど、やっぱり似合っていないのかな?」
私はなぜ、女物の服を着ているか?という意味で聞いたのだけど、蒼生は違う意味で捉えたようだ。
それにしても、紫雨が?御会に強引に参加してきたときは、胸にあるラ・フランスを捥いでやろうかと思ったが、なかなか良い趣味してるじゃない。
「・・・」
「それに白っぽいのはこれしかなくて。」
「・・・」
「紅葉ちゃんが黒っぽい服だから、それに合わせたつもりなんだけど・・・。」
最後の方に行くにつれて声が小さくなっていった。
『なんてかわいい事を言うの。蒼生マジ天使、天使マジ蒼生。現人天使だわ。ていうか、褒めなきゃいけなかったのでは?今からでも遅くないかな。』
「まぁ、いいんじゃない?」
ああ、私の馬鹿素直になれない。
「良かった。紅葉ちゃん何も言わないから、失敗したのかと思った。」
蒼生が心底ホッとしたような声を出す。
「百貨店。」
「えっ?」
「さっき、どこ行くか聞いたでしょ?」
「ああ」
今日の私の作戦はこうである。まず、男物の時計が欲しいという理由で蒼生に時計を選んで貰う。そして、そのお礼という流れで、蒼生に様々なプレゼントをする。第一候補はコスメ。理由は化粧した蒼生が見たいのと、ネットで調べるとプレゼントされて嬉しいもののトップだったから。第二候補はアクセサリー。理由は、蒼生とお揃いにしたいから。そして、私に財力を魅せつけられた蒼生はこう言うの。
"ふぁああ、紅葉ちゃんてやっぱり頼りになるね。好き。"
『完璧ね。』
-----------------------
「う~ん」
蒼生が腕時計のショーケースを前に唸る。私の話を真に受けてまじめに時計を選んでいる。かれこれ30分程になる。漸く、ある程度、絞れたみたいだ。
「・・・・」
「紅葉ちゃん、この3つなんだけど、どれが一番いい?」
商品を順に指さす。正直、蒼生が選んでくれたならどれでもいいんだけど。
「これ。」
3つのうちの一つを選ぶ。違いが殆ど分からない、共通点と言えば、シックなデザインにワンポイントで赤のアクセントがあるくらいだ。
「うん、分かった。じゃあ、店員さんを呼んでくるね。」
蒼生がよたよたと歩いていく。後ろ姿もかわいい。あれだけかわいいと誘拐とかが心配である。
「じゃあ、次ね。」
蒼生がナチュラルに時計の代金を払おうとしたので、強引に止めた。今日は私の財力を見せつけるのが目的だ。というか、蒼生には私が時計代を巻き上げるような人間に見えているのだろうか?可能性がないとは言いきれないのが微妙である。
「次?」
「コスメを買うわよ。」
「コスメ?」
蒼生が怪訝そうな声を出したが、大人しく付いてくる。
「選んで。」
「うん」
そういうと、蒼生が男物のコスメを見に行く。
「そっちじゃない。あなた用のコスメを選ぶの。」
「へっ?僕の?」
「そう。」
「いやいや、僕に化粧品て、そもそも何買えばいいか分からないし。」
言われてみれば、そうだ。そこまで、気が回っていなかった。私も詳しいわけじゃないし。
「好きなのを買えばいいわぞ。」
「好きなのって?」
「なんでもいいから。」
金を惜しむつもりはない。
そう言うと、蒼生がゆっくりと商品を選び出す。なんか、無理やり選ばしているような感じがする。でも、他に方法が分からない。私が勝手に選んでプレゼントした方が良かったのかしら?
「ああ、これがいいかも。」
5分ぐらいして、蒼生が一つの商品を選ぶ。見れば、1000円くらいの色付きリップだ。
色付きリップって小学生じゃないんだから。しかし、蒼生が選んだものを頭から否定していいものか悩むところだ。私は適当に近くにあった、メイクセットを手に取る。35000円と書かれている。一応、ブランドものだ。
「それを買うのな。貸しなさい。これと一緒にプレゼントするから。」
財力を魅せつけるのは、アクセサリーでも出来る。
「えっ、プレゼントって紅葉ちゃんが???」
「そうよ。」
「そんな、悪いよ。高いし。」
「時計を選んでくれたお礼。」
「でも」
「悪いと思うなら、きちんと女の子になる事。」
「・・・」
蒼生が素直にリップクリームを渡す。
「さて、次ね。」
「・・・うん。」
蒼生が黙ってついてくる。と思ったらその場でよろけて、ゆっくりと膝をついた。なんで、何もないところで転ぶのかしら?
「・・・」
「・・・」
「・・・」
立ち上がるかと思ったが、そのまま、しばらく経っても動き出さない。不思議に思って傍に寄る。
「へへへ、眼がチカチカしちゃった。」
確かに化粧品売り場は明るいけど、それだけじゃない気が・・・。よく見ると蒼生の顔は真っ赤だった。
「あなた熱があるんじゃ?」
「・・・」
「熱があるのね!?」
「・・・ちょっとだけ調子悪いかも。」
「はやく病院にいくわよ。」
腰を屈めて、おぶさるように促す。
「えっ、でも。」
「いいから。乗りなさい!」
そういうと、蒼生が素直におぶさってきた。体が熱いのが背中越しにも伝わる。
なんで無理するの馬鹿蒼生。いや、馬鹿は自分だ。蒼生が我慢する性格なのは分かっていたはずなのに。気がつかずに散々、連れまわして・・・。
人目も、背中に当る物も、今は気にしている余裕はなかった。
よければ、いいね。ブクマ。評価お願いします。
やる気が出ます。