蒼生の困惑
「まずは作戦会議よ。」
紫雨さんが、そう切り出した。
インナーについて説明しているお薦めのサイトと、売っている近所の店を教えて欲しいとメッセージを送ったら、何故か一緒に買いに行く、という話になった。場所は郊外にあるショッピングモールである。今はその併設された休憩スペースに居る。
「作戦会議?」
僕がオウム返しをする。下着を買うのに作戦会議が必要なのだろうか?
「蒼生君はアンダーを買うのは初めてでしょ?」
「そうだけど。」
スポーツブラをしているが、たぶん、ノーカンという判定なのだろう。ちなみに、下はボクサーブリーフだ。
「上のサイズはいくつか分かる?」
上?バストの事かな?
「し、Cカップです。」
何故か敬語になる。
紫雨さんが、腕を組みながら、うん、うん、と頷づく。
「蒼生君。あなたは今、解答を間違えましたよ。」
「ええっ!」
少し大げさに驚く。一応、体が変わった時に身体測定もした。間違っていない筈なんだけど・・・。
「ブラジャーを買いに来たなら、C70とか、C75とか、具体的なサイズまで、言えないとダメなの。」
「C70、C75・・」
「分かる?」
「ううん。」
首を横に振る。身体測定の時に聞いたかな?言ってたかもしれないが、記憶には残っていない。
「そう、まあ、サイズはもう一度、後で測りましょう。ふひ。」
『ふひ?』
「でも、今のやり取りで確信した。蒼生君はアンダーを買う事を軽く見過ぎている。」
紫雨さんがビシッと僕を指さす。
「ええっ!」
また、少し大げさに驚く。
「・・・」
「「フフッ」」
少し間が合って、二人で笑う。
「まぁ、それは冗談としても、考えることは、色々あるの。」
「例えば?」
「価格帯、ワイヤーの有り無し、フィッティング感、どういう形に見せるか、生地や肌ざわり、長時間つけていて痛くない事も重要だし、場面によっても切り替える必要もある。外出の時はワイヤー有り、家に居る時はワイヤー無しにするとか、夜はナイトブラもいるし、機能性の高い物は夏冬で分ける場合もある。特に夏はストラップレスで、アウターと色を合わせて、透けても目立たなくするとか・・、育乳を意識するのか、とか・・・」
「なんか、難しそうだね。。」
紫雨さんは一気にそこまで捲し立てた。正直、あまり聞き取れなかった。
「でもね、一番重要なのは"見た目"よ?」
「そうなの?」
肌ざわりとか、痛くない事の方が重要な気がするけど?
「そうなのよ、好きな人がこの下着をみてどう思うのか?それを想像しながら選ぶの。」
「う~ん」
「徐々に分かるようになるわ。」
好きな人か、一瞬、紅葉ちゃんの顔が浮かんだけど・・・。
「・・・」
「じゃあ、具体的にどういうルートで見て回るかを、決めましょう。予算はどのくらいあるの?」
紫雨さんがスマホにショッピングモールの地図を表示する。
「20万くらいかな。」
両親に服を買いに行くと言ったら、スマホの決済アプリに50万入れてくれた。
「20万!?」
「あ、いや、全部を使うつもりはないんだけど。」
「それだけあるなら、かなり余るわね。アンダーは取り敢えず、4セットあれば十分だし。」
紫雨さんが"フム"と、考えるポーズをとる。
「セット?まとめ売りのを買うの?」
「蒼生君!」
"ずい"と紫雨さんが、顔を近づけてくる。近い。
「何?」
「左右違う色の靴下を履く?」
変な質問だ。
「いや、そんなことはしないけど。」
「そういう事。」
「どういう事?」
「ブラというのは、ショーツと組み合わせて使うものなのよ。それで1セット。」
「ショーツって、パンツの事?」
「そうよ。」
「パ、ショーツも買うの?」
「そうよ。」
「後日、改めて・・・」
「ダメよ。」
「でも・・・」
パンツはハードルが高い気がする、ボクサーブリーフじゃダメなのかな?
「身も心も女の子になるのでしょう?」
そんな事、言った覚えないのだけど。
「・・・」
「私がきちんと見立ててあげるから。」
”フフッ"と紫雨さんが笑う。
「分かった、お願いする・・します。」
微妙に敬語になる。確かにここまで付き合わせて何も買わないでは、悪い気がする。
「うん、いい返事ね。ところで、さっきも言いかけたんだけど、資金が余ってるなら、アウターも一緒に買わない?」
紫雨さんが提案してくる。
「迷惑なんじゃ?」
両親に服を買いに行くと言った手前、少しは外着も買うつもりだった。でも、そこまで付き合ってもらうのは・・。
「ついでだし、気にしなくていいわよ、それに女性ものの服も持ってた方が良いわよ?」
紫雨さんが、こちらを見ながら言う。
僕の今の格好は、チノパンにソリッドカラーのサマーセーターという為体である。もっともこれは、上下分離式で脱ぎやすいものという紫雨さんの注文に合わせた結果でもあるのだけど。
「分かった、それも甘えるね。代わりに紫雨さんの買い物にも付き合うから、なんなら、荷物持ちもやるし。なんでも言ってね。」
好意には好意で返そう。
「なんでも?」
「うん。」
「そう。じゃあ、まずはここの店から回りましょう。ついでに、じっくりと女の子の事を教えてあげるから。」
その後、2人で店を回り。買い物が終わったのは午後4時ぐらいだった。紫雨さんの距離感は相変らず近かった。
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やる気が出ます。