四人四色 2
『今日の御会は、よかったな。』
いつもは不機嫌にしている紅葉ちゃん相手に、二言三言話して終わる事が多い。紅葉ちゃんと灰斗も仲良くなったみたいだし、楽しそうだった。僕も紫雨さんと仲良くなれた。なんなら、4人で遊びに行く約束もした。
来年は受験生という事を考えると、この夏休みは高校生の間に遊べる最後の長期休暇だろう。体が変わったせいで、勉強漬けで終わるかと思ったけど、少しは思い出も作れそうな気がする。
『それにしても、紫雨さん距離感近すぎないかな?』
一緒に御茶を淹れていた時の話だ。女子の距離感てあんなものなんだろうか?パーソナルスペースが男子より狭いのは知っているけど、普通にボディタッチしてくるし、というより、胸も当ってたような・・・。今は僕も女の子なのだからいいのだろうけど、いや、いいのだろうか?
紅葉ちゃんは、女子になった事を受け入れなさいと言った。胸を見る。小さめのスポーツブラはやはり圧迫感がある。とはいえ、揺れる事もないし、見られる回数も幾分減るように思える。
胸の事は紫雨さんにも指摘された。圧迫しすぎると形が悪くなるとも言われた。別に多少悪くなっても困らないんだけど、そういう事に気遣うのが、やはり女の子なのだろう。
体が変わって1か月、そろそろ現実を受け止める時期が来たのかもしれない。紫雨さんは困った事があれば相談に乗ってくれると言った。
メッセンジャーアプリを取り出し、紫雨さんにチャットを送る。徐々にでも順応してかないと・・・。
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『最悪よ。』
怒りに任せてつまらない勝負をしかけてしまった。アンガーマネージメントが出来てない証拠ね。とはいえ、灰斗に変に騒がれるよりは、勝負にしてしまった方が良かったとも言える。
灰斗は性別が変わった件で、"蒼生を気にかけて欲しい。"と蒼生の両親から頼まれているはずだ。やろうと思えば、その延長でくだらない讒言を二人に吹き込む事も出来るのだ。
しかし、よくよく考えると、勝負内容自体は悪くはない。婚約がある事で、蒼生は灰斗からアプローチを受けても"うん"とは言わないだろう。あの子は自制心の塊だから。この勝負は私にかなり有利なのだ。
『それにしても、今日の蒼生もかわいかったな。』
女になった蒼生は天使の如くの存在だろう。元より、男でも女でも違和感のない容姿と性格をしていたが、男性の時はマイナスだと取られがちな要素が女性になった事で、プラス要素に変わった。気遣い、やさしさ、なよっとした性格も・・・。今は周りも元男子という事で敬遠しているかもしれないが、徐々にそういった意識も薄くなってくる。
そう考えた場合、灰斗は悪くない存在だ。灰斗がアプローチをかけている間は、並みの男では近寄りづらい。そして、勝負が終わった後は、良い友人を演じてくれる。これも男を遠ざけるのに役に立つ。
もちろん婚約という防御壁はある。だが、性別が変わった事で、灰斗のように婚約が無意味な空約束と捉える人間は出てくるかもしれない。壁の枚数は多いに越したことがないのだ。
『でも、守るのは趣味じゃないわ。』
灰斗は自分が、蒼生を落とすと考えているのだろうけど、別に私が蒼生を先に落としてもルール上は問題ない。負ける勝負はしない。やる以上は必ず勝つ。
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『勝負か』
今日の御会の事を思い出す。人の気持ちとかを勝負に利用するのは、ゲームみたいで好きじゃない。
それに、蒼生は心の中で葛藤を抱えているだろう。男である自分、女である自分。その中に無粋に切り込んで"好きだ"等と、俺の立場から告白して良いのかどうかという疑問もある。
とはいえ、それしか方法がないなら、正々堂々とやるだけだ。正しかろうが、間違っていようが、抑えきれない思いというのはある。それを大事にしなくなったら、人間としては終わりだ。
『それにしても、紅葉があんな奴だったとはな。』
以前の紅葉には、人当りの良い優等生タイプという印象しかない。蒼生が紅夜に遠慮している場面は前から何度か見かけていた。二人にしか分からない事があるのだろうと黙殺してたのだけど。今日は我慢できずに言ってしまった。
まぁ、売り言葉に買い言葉だ、紅葉も大して気にはしていないだろう。それに何故か紅葉を憎めない自分がいる。
『紅葉は本当に蒼生の事を何とも思っていないのかな?』
口ではああ言ってたが、幼馴染で、婚約者、どう考えたって意識するだろう?嘘なのか、本心なのか?性別が変わったから興味がなくなったのか?わからない。
仮になんとも思ってないとして、そんな相手と結婚できるものなのだろうか?それもわからない。分からなことだらけだ。だけど・・。
『蒼生が俺の隣に居てくれたら、どんだけ幸せだろう。』
これだけは、わかる。そして、それで十分なのだ。
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『あの、総受け体質。たまらない。』
"フフフ”と、思わず笑みが、零れる。御茶汲みの時に、軽くおっぱいを当ててみた。どういう反応をするか見たかったのだ。
案の定、過剰な反応はせず、ゆっくりと離れた。すぐに離れなかったのは、そうすると私を傷つけると思ったのだろう。そんな心配しなくていいのに。
『少し困ったような顔が最高にそそるのよね。』
壁際に追い詰めて、おっぱい相撲したい。というより、強引に押し倒して、おいしくいただけないかな?蒼生君が"ダメだよ紫雨さん"って、言ってるうちに、全てが終わりそうでもある。(犯罪です。)
夏休みにどうやって蒼生君と連絡を取ろうかと悩んでいた時に、紅夜から御会の話を聞いた。紅夜とその父親を(強引に)説得して、御会に参加させて貰った。
『それにしても、灰斗も蒼生君を好きだなんて。』
紫雨と灰斗は小中高と同じ学校に通い。何度か同じクラスにもなった事がある。言わば腐れ縁という奴である。
紅夜が蒼生君の事を好きなのは、近くで見ていてなんとなく知っていたが、灰斗もか。まぁ、あれだけかわいい女の子が、傍に居れば、必然とも言えるのかな?
スマホの録音データを再生する。御会の時の紅夜と灰斗の勝負の話が記録されている。私達が席を離した後何を話すか興味があったのだけど、大当たりだった。
紅葉の発言は取り方によっては、蒼生君に他に好きな人が出来れば婚約を解消するともとれる。つまり、相手は灰斗でなくても良いのだ。
この勝負、私も陰ながら参戦させて貰う。
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やる気が出ます。