蒼生の失言
「あら、真島君も来たの?」
紅葉ちゃんが、僕達を迎えてくれる。愛想がいいのは、灰斗が居るからだろう。
「灰斗も御会に参加したいらしいんだけど、いいかな?」
遠慮がちに聞く。御会の話を灰斗にしたら、連いてくると言い出した。
「悪いな急に押しかけて、ただ、駒崎も男になった事だし、少し話して見たいと思ってよ。」
そういう事らしい。
御会の目的は二人の親睦を深める事だから、別に友達が混ざっても良い。なんなら、最初の頃は母親とか普通に参加してた。いままで参加したい何て事を言う酔狂な友達が居なかっただけだ。
「・・・いいわよ別に」
意外にも紅葉ちゃんが、すんなり許可を出す。拒否されると思ったけどそんなことは無かった。僕と二人りきりになるよりは、よほどましと思ったのかもしれない。でもちょっと不思議な感じもする。
紅葉ちゃんの部屋に通される。相変らず天文関係のポスターと本が多い。
「あれ、真島君も来たの?」
先程聞いたような台詞をもう一度聞く。
「倉田さん。」
「倉田!」
僕と灰斗の声が重なる。
「私が居ちゃ、おかしいかしら?」
「いや、おかしくねぇけど。」
灰斗が答える。
よくよく考えれば、倉田さんは紅葉ちゃんの親友である。ここに居てもおかしくはない。
「駒崎君も女になって困ってないかなって。少し話さない?」
なるほど、灰斗が紅葉ちゃんを気にかけたように、倉田さんは僕を気遣ってくれたのかもしれない。紅葉ちゃんの親友だけあって、いい人なのだろう。
「勿論いいよ。」
笑顔で答える。
「ありがとう。早速なんだけどさ。」
そう前置きをして倉田さんが切り出す。
「駒崎君って呼ぶの堅苦しいから?蒼生君て呼んでもいいかな?紅葉もいるからややこしいし。」
「えっと・・・・、いいけど」
随分いきなりな感じだけど、別に問題はない。
「そう、じゃあ代わりに私の事は紫雨って呼んで。」
「紫雨。」
何故か、灰斗が僕の代わりに呼んだ。
「あんたは、倉田様って呼びな。」
倉田さんが灰斗を睨みながら言う。
「ひでぇ、扱いの違い。」
灰斗が天を仰ぐ。
「フフッ」
軽口の応酬に思わず笑みが零れる。
「・・・」
「あっ、ごめん。紫雨さんて呼ぶね。それでいいかな?」
「普通に呼び捨てでいいのに。」
「いや、それはちょっと。」
流石に呼び捨ては出来ない。
「まぁ、いいわ。今のところはそれで。」
「んじゃ、俺は駒崎の事、紅葉って呼んでもいいかな?」
今度は灰斗が紅葉ちゃんに向かって言った。
「お断りよ。」
紅葉ちゃんが短く答える。
「・・・」
「うそよ。紅葉でいいわ。こっちこそよろしく灰斗。」
「おー、おー、なんかすっげぇ友達なれそうな感じ。」
紅葉ちゃんと灰斗がパチンとローファイブする。
紫雨さんと灰斗がいてどうなるかと思ったが、全然問題なかった。あっという間に場の雰囲気を作ってしまった。そのままの流れで会話が続く。
「話変わるけど、紅葉は部活やらないの?」
暫くして、すっかり打ち解けた灰斗が紅葉ちゃんに質問する。
「やらないわ、天文部があったら入りたかったんだけど、学校にはないし。運動部系は護身術を習ってる関係で、時間的な両立が難しいから。」
「天文部ねぇ、灰斗が部屋を見渡しながら言う。んでも、もったいねぇな、そんだけ運動神経いいのに。」
「紅葉の運動神経って男子になっても凄いの?」
紫雨さんが質問する。
「すげぇ何てもんじゃないぜ、水泳は自由型でクラス2位のタイム、球技大会でも大活躍よ。」
女子の時の紅葉ちゃんの運動神経がいいのは知っていたが、男子になっても運動神経がいいのか?なんかズルい気がする。
「男子はハンドボールだっけ?」
ちなみに、女子はテニスだった。もっとも僕は見学専門だけど。
「そうそう、ハンドとバスケは結構似てるところもあってよ。ポジション取りとか・・・」
灰斗の説明が続く。
「・・・って、感じよ。」
「そういえば、バスケと言えば、さっきまで、灰斗の練習試合見に行っててさ。」
「へぇ」
「凄かったんだよ。一人で半分ぐらいの点を取って、あれだけ動ければ楽しいだろうなぁ。」
「おー、おー、もっと褒めて褒めて」
灰斗が上機嫌で応える。
「・・・」
「ああ、それで今日、真島君と一緒に来たんだ?」
紫雨さんが聞いてくる。ちょっと機嫌が悪い?
「そうだけど?」
「いいわね。親友に応援してもらえて。」
紅葉ちゃんが、灰斗に言う。
そこまで話したところで、重要な事に気がつく。
「ごめん、お茶を出し忘れていたね。」
立ち上がりながら言う。
「別にいらないけど?」
紫雨さんが言う。今度の受け答えは普通だ、機嫌が悪いと思ったのは勘違いかな?
「そういうわけにはいかないよ。すぐ用意するから。」
「じゃあ、私も手伝う。」
「悪いよ。」
「4人分のお茶を持つのは大変でしょう。」
「でも・・」
「好意は素直に受け取るものよ。」
「じゃあ、お願いするね。」
そこまで言われたら断るのは逆に悪い気がする。
僕は紫雨さんとお茶を汲むために、部屋を出た。
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やる気が出ます。