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06,初戦闘

 私は前に進む。

 精神的には参っているが、体は元気だ。

 さっき彼を殺した時に全てがパワーアップした上で全回復したから。

 吐いた分を差し引いても、体力は有り余っている。


「レベルアップすると、ステータスが全体的に上がる上に全回復するんだね」

RPG(ゲーム)のシステムを採用していますので。今のマスターは出来立てほやほやです』

「そう......」

 

 そこで会話を断ち切る。今の私は会話を楽しむ気分にはなれなかった。アイ子もそれを心を読んで分かっている為かこれ以上話しかけては来ない。

 私は森の中を黙々と進んでいく。

 そしてしばらく進むと──


「誰か助けて!」

 

 女性の悲鳴が聞こえた。

 私は咄嗟に走り出す。

 身体に擦り傷が出来るが、そんな事はどうでも良い。今は一分一秒を争う時だ。

 私はひたすら走る。すると遠目に〝何か〟を発見した。

 距離が狭まるとその〝何か〟は明確になる。

 広けた場所。そこで女の子が狼の集団に襲われていた。

 木を背にした状態で狼に囲まれている為、完全に逃げ場がない。

 恐らく狼は追い込み漁の如く彼女を追い込み、今の状況を作ったのだろう。

賢い。獲物を狩る術を心得ている。

 危機を脱するには狼を一匹倒し、陣形に穴を開ける必要があるが、女の子は完全に腰が引けていた。あれでは突破は見込めない。だが幸い事に狼は様子見に徹している。

 恐らく弱り切ったところを狩るつもりなのだ。

 集団で囲い威圧感を与え続ければ、相手は精神を擦り減らし、体力を消耗し、疲労し、隙が生まれる。どんな相手だろうと最後まで油断しない。

 獅子は兎を狩るにも全力を尽くす、か。いかにも狼らしい堅実な狩りだ。

 だが今回はその堅実さが仇となった。

 狼が堅実でいてくれたからこそ、私は彼女を助けられる。

 私は堂々と茂みから飛び出した。

 狼達の意識が一斉にこっちに向く。

 彼女は赤の他人だ。赤の他人を助ける為に命を張るのは賢いとは言えない。だが女の子を見捨てるのは心が痛む。いや、それは綺麗事だ。私は彼女を助ける事で、先程の罪から逃れようとしている。だがそれを抜きにしても、彼女を助けるメリットは多い。人間が生きている、と言う事は、その先に必ず生活園が存在するのだから。


「こんちには」


 私は狼に挨拶する。

 すると狼達は敵意丸出しでグルゥと唸る。威圧する。

 本能で私が危険だと察知したのかも知れない。

 私は一歩踏み出す。

するとすぐさま私の排除に動き出した。

 流石狼。優秀だ。

 狼は陣形を保ったまま左右にジグザグに動きながら迫ってくる。

 狙いを定ませない為だろう。

 

 ──速い。目で追うのがやっとだ。以前の私なら。


 だが今の私はクッキーだ。それについ先程レベルアップして全体的にステータスが上昇したばかり。今の私の動体視力は人のそれではない。

 狼の動きを余裕で目で追える。

 一歩間違えば死ぬという状況なのに、全く恐怖を感じない。まるで蚊と対峙した時の様に心は穏やかだ。

先頭の狼が飛びかかってくる。

 狙いは私の頸動脈。人間の、いや、生物の弱点を熟知している。

だがせっかくのスピードも空中では活かしきれない。空中では無防備だ。

 私は右手で指鉄砲を作ると狼の心臓付近に構えて「〈クッキー・ビーム〉」を放つ。

すると狼の姿がみるみるうちにクッキーに変わって地面に落ちた。

 残りの二匹はそれを見て一瞬脚を止めた。だが戦場ではそれが命取り。

 私はその隙に〈クッキー・ビーム〉を放ち、一匹葬ると、残りの一匹に目を向ける。

 すると狼は一瞬たじろぐ。だが直ぐに自分を奮い立たせる様に雄叫びを上げ、向かって来た。

 

 流石狼だね。


 狼は気高き死を選んだ──私が出来なかったそれを。

私は狼に敬意を払って〈クッキー・ビーム〉を放った。


 狼を殺した──クッキーにしちゃった訳だけど、正当防衛だし仕方ないよね?

 

 あのままでは私がやられていた。だから仕方ない。無益な殺生じゃない。私はそう誰に問われることなく言い訳しながらクッキーを拾い上げる。

 クッキーには狼の絵が描かれていた。

 元の素材が良いだけあって高級感溢れるクッキーに仕上がっている。

 見た目だけならクッキー缶に入っているタイプのクッキーだ。

 

 狼産クッキーって事かな。てか、絵の部分はチョコ?

 

 反射的に鼻に近付けて匂いを嗅ぐ。

 分からん、なら試しに齧ってみるか。

 私が狼を食せば、狼の死は無駄にはならない。狼は私の血となり肉となる。狼は永遠に私の中で生き続ける。だから私は狼を食べる。それが獣を殺めた者の務め──いや、義務だ。


「頂きます」

 

 今までと同じ言葉であって、その実中身は全く違う。

 実際に生物を殺めたからこそ出る言葉の重み。

 私は生まれて初めて本心から食べ物に感謝した。

 歯でバリッとおっかき、ボリボリと咀嚼する。

 口内に広がる甘いバターの風味に、微かにカカオの風味が混ざっている。

 絵柄の部分は予想通りチョコだった。

 シンプルなのもいいけど、こういうちょこっとチョコが混ざってるのもいいよね──チョコだけに。

 私はそう内心でジョークをかますと残りもペロッと平らげる。

 すると脳内にいつもの声が響いてきた。


『スキル〈斬撃:小〉を獲得しました。経験値を取得した事により、クッキーポイントを1獲得しました』


 ──クッキーポイントって何だよ。


『クッキーポイントとはクッキー進化ツリーに使えるポイントです』

『レベル』とは別の概念なのか、面倒だな。


 レベル  :3

 名前   :チサト・センドウ

 種族   :クッキー・ガール

 職業   :クッキー使い

 賞味期限 :残り五日

 

 固有魔法


〈クッキー・ビーム〉


スキル


〈斬撃:小〉


 固有スキル


〈クッキー作製〉〈クッキータッチ〉


 称号


【クッキー転生】


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