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05,『生きる』と言う事

 クッキーは武器としては使えない。だから餌として使った。動物を誘き出す為に。

 だが餌に掛かったのは人間だった。

 薄汚い服を着て腰に剣を携えた男。

 もう時間は残り五分を切り、死がジリジリと迫ってくる。

 人間も動物と同じく生物である事は分かっている。だが私は元人間だ。どうしても人間に肩入れしてしまう。人間を殺すのには抵抗がある。

 だが今から動物を探す時間はない。

 この瞬間を逃せば、私は死ぬ。

 綺麗事を言っている場合ではない。私が生き残るには彼を殺す以外に道はないんだ。

 体が震える。

 人を殺す事に拒絶反応を起こしている。

 だが迷っている暇はない。

 今この瞬間にも時間は刻一刻と迫っている。


 覚悟を決めろ私。


 人は生きる為に家畜を殺す。

 ライオンは生きる為にシマウマを狩る。

 私の行いもそれと何ら変わりない。

 私も生きる為に人を殺す。彼等が生物を殺し喰らい糧とする様に、私も彼を殺し、経験値の糧とする。

 私は彼に聞こえない様に小さく深呼吸する。

 私はこれから彼を殺す。私が生きる為に。

 するとその瞬間、嘘の様に身体の震えが止まった。それは私が覚悟を決めた証拠だった。

私は手を握り、開くを二、三度繰り返して感触を確かめる。


 うん、大丈夫。


 確認が済んだら予め用意していた手頃な石を持ち、彼の背後に回り込む。

 そして背後からこっそりと近付いて、彼の後頭部目がけて石を振り下ろした。

 頭蓋骨が陥没する生々しい音。

 彼は前方に倒れ、大量の血を流す。それを見て私の手から石が零れ落ちる。

 男は最後の力を振り絞って私を見た。

 男と目が合った。

 男は私を見て微かに笑うと動かなくなった。

 そしてその瞬間私の中に〝何か〟が流れ込んで来た。

 

 これが経験値か......


『経験値を取得し、レベルが1から3に一気に上昇しました。レベルが2に上昇した事でスキル〈クッキー・タッチ〉を習得しました。レベルが3に上昇した事で固有魔法〈クッキー・ビーム〉を習得しました』

 

 レベル  :3

 名前   :チサト・センドウ

 種族   :クッキー・ガール

 職業   :クッキー使い

 賞味期限 :残り五日

 

 固有魔法


〈クッキー・ビーム〉


固有スキル


〈クッキー作製〉〈クッキー・タッチ〉


 称号


【クッキー転生】


 疲れが一気に吹き飛ぶ。魔力の保有量が若干増え、今まで使用した分も含めて全回復する。それを敢えてゲーム風の言葉に置き換えて表現するなら『レベルが上昇した事により、全体的にステータスが上昇しました』だ。レベルアップの恩恵は私が思っている以上に凄まじい。私はレベルが上がった事により『クッキー』として一段階確実に強くなった。だがそれは『強くなる』と同時に人を殺めた事への証明でもある。罪悪感が遅れて一気に押し寄せ、胃液が喉元を一気に駆け上がる。


「──うっ!」


 私は咄嗟に口を押さえる。だが胃液の波は私が想像しているよりも激しかった。


「おええええええええええええええ!」

 

 私は堪らず吐き出した。


 人を殺した。人を殺してしまった。


 その事実が私に重く伸し掛かる。

 手が小刻みに震えている。未だに彼を殺した感触が手に鮮明に残っている。私の手は血で染まってしまった。

 彼の最期の顔が脳裏に鮮明に焼き付いて離れない。

 何故彼は最期に微笑んだのだろうか。

 今となってはその謎を知る術はない。もう彼はこの世にいないのだから。

 罪悪感が私の心を呪いの様に蝕む。私はその呪縛から逃れる為に必死に足掻く。

 仕方ない事だった。生きる為だった。誰も私を咎める事など出来ない。私は生物の本能に従っただけ。ただそれだけ。

 私は自分にそう言い聞かせる事で何とか精神を保った。

 君の死は無駄にはしないよ。

 私は盗賊から剣を奪うと腰に巻きつける。


「まさかこんな形で武器を手に入れることになるなんてね……」


 私はそう言って皮肉げに笑うと、男に土を被せた。

 こんな事しても何の贖罪にもならない、と分かっている。だが少しでも弔ってやりたかった。


 いや、それは違うか。


 私は善行を働く事で自分の中の罪悪感を少しでも減らしたかったんだ。結局気休めにもならなかったけど。

 私はどこまでも我儘で自己中だね。

 そして私は先に進む。

 


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