01,クッキー転生
第一章開幕です。
ハッと目を醒ます。
開幕飛び込んで来た情報は──見慣れない景色。暖かい気温。野外だ。
な、なんで。
『千堂千里をマスターとして承認しました』
まだ混乱の冷めぬ中、脳内に抑揚のない声が響いてくる。
だが生憎妄想癖は持ち合わせていない。
──誰?
『私はマスターの身体に搭載されたサポートAIです』
悟られてる。
『私はマスターの心に関与する権限を持ち合わせております』
許可を与えた覚えはないんだけど……
『クッキー神様により与えられました』
──クッキー神? なんじゃそりゃ。
『クッキーを司る神様です』
範囲狭過ぎでしょ。何でピンポイントに『クッキー』だけ司ってんだよ。せめて砂糖菓子全般を司れよ。
とんでもなくスケールの小さい神様だった。
しかしまさかこんな可笑しな神様が実在したなんてね……お菓子だけに。
「私がここにいるのも、そのクッキー神と何か関係がある訳?」
私は死んだ。仮にあの状況で奇跡的に一命を取り留めていたとしても、こんな開けた場所にたった一人で突っ立っているのはあり得ない。
『はい。マスターはクッキー神様に『プレイヤー』として選ばれました』
──プレイヤー?
『マスターの世界に馴染みのある言葉で言うと、RPGのプレイヤーです』
「──それに私が選ばれたと?」
『はい、そうなります』
ゲームね。
現代日本に生きていた私にとって『ゲーム』とは馴染み深い言葉だ。現在日本に生まれた人で『ゲームをやった事ない人』は『やった事ある人』と比べて遥かに割合が少ないだろう。私も有名なRPGやアクションゲーム、パティーゲームは一通りやった事がある。因みに私の一番好きなゲームは、クッキーをクリックして只管増やすアレだ。
「神──クッキー神の狙いは? 何でそんなことを?」
『暇潰しだそうです』
いかにも神らしい身勝手な理由だった。だが今の説明では分からない部分もある。
「なんで私が選ばれたの?」
私は人よりちょっとクッキーが好きなだけのただの普通の女の子だ。私よりクッキーが好きでクッキーに詳しい人は世の中に沢山程いるだろう。なら何故その様な人達を差し置いてまで私を選んだのか?
『その歳で糖尿病で亡くなった第一人者だからだそうです』
砂糖菓子にとって糖分の取り過ぎで亡くなる事は『気高き死』として扱われるらしい。砂糖菓子の価値観は分からん。
「で、アイ子──」
『──アイ子?』
「AIをそのままローマ字読みしてアイ子。これから長い付き合いになるんだし、他人行儀な呼び方はアレでしょ? ──それともアイ子は嫌だった? だったら第二案のSiriにする? Siriなら手軽に『Hey,siri』って呼び出せるし」
『いえ、アイ子で構いません』
心なしか嬉しそうに聞こえるのは気のせいだろうか? いや、今はそんな事よりも目の前の事だ。
『じゃあ話を戻すけど、プレイヤーの私は何をやれば良いの?」
『プレイヤーはマスター自身なんですからマスターの心赴くままに行動して頂いて結構です』
「──好きにやって良いんだね?」
言質は取ったが一応確認しておく。
『はい。マスターが勇者になろうと魔王になろうと、私やクッキー神様がマスターの行動に干渉する事はありません」
それを聞きたかった。これで後で何か言われても、『好きにして良い』って言いましたよね? と反論出来る。揚げ足を取れる。免罪符に出来る。
『情報のインストールを開始しますか?』
「なにそれ」
『現段階で覚えている魔法やスキルの情報を得られます。それにより魔法やスキルの行使が可能になります』
聞く限り得しかなさそうだ。なら断る理由もない。
「じゃあお願い」
『畏まりました。ではこれより情報のインストールを開始します』
その直後、膨大な量の情報が濁流の如く一気に頭に流れ込んでくる。当然それだけの量の情報を一気に脳に流し込めば、脳に膨大な負担が掛かり、脳が悲鳴を上げる。
「うあああああああああああああああああ!」
私は余りの激痛に耐え切れず、頭を押さえ、その場にうずくまる。
頭が割れる様に痛い。
だがそれは時間にしてほんの一瞬だ。
情報のインストールが完了すると、先程の痛みが嘘の様にスッとひく。
そしてその直後、目の前に文字が浮かび上がった。
レベル :1
名前 :チサト・センドウ
種族 :クッキー・ガール
職業 :クッキー使い
賞味期限 :残り六時間。
固有スキル
〈クッキー作製〉〈クッキー・タッチ〉
称号
【クッキー転生】