4.結界に囲まれた豊かな島
「それにしても、あそこに見えるのは発電所? 他にも色々な施設があるみたいだけど」
「はいです。外の世界で必要とされているインフラ周りは、だいたい揃ってるんじゃないですかね? なんだかんだでこの島、地下で今も動いている《聖心臓》のおかげで資源も豊富ですし」
「かでぃ……えーた?」
当然聞いたことのない、その単語に首を傾げる上鳴へ、箱園は続けて補足する。
「この島のまさに『心臓』で、魔力を生み出してこの土地に送り出す、とーっても重要な役割を担ってる器官ですよ。おかげで畑の土はどれだけ連続で野菜を育てても、常に元気だったり、気候的に育たないような作物もしっかりと育ってくれたり。こんなに小さな島がここまで発展できたのも、《聖心臓》あってこそですねー」
普通の島ならば、電気や水道、ガスだったりのインフラを島一つでまかなうなんてまず不可能だろう。全て揃えられる環境があったとしても、これだけの人数が暮らせばすぐに枯渇してしまうはず。
だが、魔力が土地に継続的な潤いをもたらしてくれるおかげで、今日もこの島は外からの干渉を受けることもない、それでいて島の中だけで全てが完結する――そんな楽園を維持し続けているという。
「そうだ、なーくん。今日のご飯はどうしますか? 肉か野菜か魚。どれもほっぺが落ちちゃうくらいにはおいしいですよ!」
「本当になんでも揃ってるんだな、この島って」
「はいっ、どれもこの島の特産品ですからねー」
肉があるということは、どうやら島の中に牧場まであるらしい。魚なら一面海だし、特産であってもおかしくはないが――そこそこの人数が暮らしているとはいえこの小さな島で、肉までをも自分たちで賄ってしまっているというのだから恐ろしい。
地球全体を凝縮したのがここ、隠祇島とさえ言えるだろう。
「そうだなあ……って、ご飯までご馳走になっちゃっていいのか?」
「何いってるんですか。村にはもちろん宿なんてありませんから、ここで暮らすとなれば私の家くらいしか寝泊まりできる場所なんてないでしょ? これからしばらく、共に暮らす……いわば家族になるんですから、ご飯を作るのは当然ですよ」
「そ、そうか。……ありがとう箱園さん。しばらくお世話になるよ」
「あとその、堅苦しい呼び方もナシです。紗々羅でいいですよ。あ、私がなーくんって呼ぶのと同じように、さーちゃんって呼んだほうがしっくりきます?」
「分かったよ、紗々羅。あとその呼び方はどう考えても無しだ」
ええー、と心底ガッカリしたようにぼやいているが、そんな出来たてホヤホヤのバカップルがしていそうな恥ずかしい呼び方――と本人を前にしては口が裂けても言えないが――できるはずもない。
***
小さいながらも最新家電が揃う電気屋に、オシャレな外観のレストランまで。本当になんでも揃っているんだなぁと感心しながらも村内を歩いていくと、島の生産物が一点に集まり、島独自の通貨で取引されている、島の食料や日用品が集まる中心地らしきスーパーマーケットへと到着した。
ここで使われている通貨の価値は上鳴にもよく分からない。だが、日本では生産から実際に消費者の手元へと届くまでにいくつもの会社を挟んでいるのに比べて、この島では生産者が直でスーパーへと卸しているため、その分物価も落ち着いているはずだ。
しかも、並んでいるどの食材も新鮮そうで、食の豊かさに関しては世界のどこにも負けていないだろう。食べる事が好きな人にとってはまさに楽園。
「では、今日は適当に野菜炒めと、煮物でも作っちゃいましょうかね。あとはお味噌汁もあれば十分ですよね?」
「ああ。むしろ豪華すぎるくらいだよ」
海で魚でも獲って、火を起こしたら丸焼きに――そんな原始的な島での食生活を思い描いていたのに比べれば、本当に文明的で、豪華すぎる献立だった。




