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3.オフモードの巫女さんと

「この隠祇島(おぎじま)に国を作る。その為には色々と準備が必要です。最優先は、この島に張られた結界の解除ですが……今日は上鳴(うわなき)様もお疲れでしょうから、明日から本格的に動くとしましょう」


 神社の巫女さんから今後の動きについて軽く説明を受けた。が、今後の大仕事といえば、この島を出入り不能たらしめる、周囲を囲んでいる結界の解除くらいか。


 この島に国を作るとなれば、当然あの結界は邪魔になるし、そもそもその目的を果たす為に抑えていた土地だ。計画が始まるとなれば、もうあの結界も用済みとなるだろう。


「さて、仕事の話はこれで終わりとして」


 巫女がそう前置くと、緊張の糸が解けたどころかプツリと切れてしまったかのように。彼女の堅い表情がすっかりと緩んで――。


「ふいー、つっかれたあ……。あ、()()()()も適当にくつろいじゃって良いですからね? 寝たいならどこかに予備の布団があるので持ってきますよ!」

「え? なーくんって……」

「え? 上鳴さん、ですよね? じゃあなーくんでいいじゃないですか」

「そんな呼ばれ方をしたのは初めてだし、それよりもさっきまでとのギャップが激しすぎないか?」

「あー、私、仕事とプライベートはハッキリと分けたいタイプなんです。働き方改革ってやつですね!」

「合っていそうで微妙に間違ってないか、それ」

「えっへへ、知ってる言葉を適当に言ってみただけなの、バレちゃいました?」


 仕事とプライベートだと性格が変わる、というのは珍しい事でもないだろうが……こう、気持ちではなく物理的なスイッチのオンオフによって人格が切り替えられるのかと疑ってしまうほどには、まるで別人のようだった。


「あ、お茶はありますけど出すのがメンドクサイのでセルフサービスってことで。確か冷蔵庫にはお菓子があったと思うので、勝手に食べちゃってくださいねー」

「ああ。ありがとう、箱園(はこぞの)さん」


 とはいえ、勝手に人様の家の冷蔵庫を漁るのは何となく気が引けたし、疲れているとはいえ来て早々ぐったりと眠りにつくのもどうかと思ったので、上鳴はふと気になっていた事を箱園に聞いてみる。


「そういや、この島には村があるって聞いたんだけど」

「ああ、ありますよー。なーくんがこの神社に来た道とはまた反対方向に、長い階段がありますから、そこを道なりに進めば村に着きます」


 と、そこまで言ったところで、彼女の頭の上で電球がピコンと光るかのごとく、ふと何かを思いついたらしく。


「――そうだ、案内しますよ! ちょうど私も日用品の買い出しに行かなきゃなのでちょうどいいですから」

「本当か!? それは助かるよ。ありがとう」


 という話になり、上鳴と箱園の二人は、さっきちらっと天河(あまかわ)が言っていた――何らかの原因で、たまたま結界を超えた人々が住むという村へと向かうことにした。



 ***



 村は思っていた何倍も栄えていた。……というよりは、人々が暮らす場所に必要不可欠な、様々な施設が島の一箇所に集まっているせいで、よりそう見えるのかもしれない。


 それにしては人通りもかなりあり、外部からの侵入を受け付けない、閉鎖的な島とは思えないほどに活気にあふれている。


「昔はこの島の管理を任されてる巫女――私のご先祖様とその身内だけで暮らす、寂しい島だったみたいです。でも、時々結界を超えてやってくる人たちが村を作り、今ではここまで発展したんですよ」

「へえ……。今、この島の人たちは平和に暮らしているのに、その平和をもたらしている結界を解いてしまっても良いのかな」

「ここの島民は全員、天津河神(あまつかわのかみ)様を信じてますから。神の方針なら、喜んでそれに従いますよ」


 とは言うが、こうして外の世界の荒事にも巻き込まれずに、長い間この島に平穏が続いているというのなら、それを余所者がいきなり壊してしまうのもどうかと思ってしまう。


「ともあれ、なーくんが気にする事じゃないです。これは島の管理者である私が、天津河神様とお話して決めたことですからね」

「そっか。それなら俺も安心して動けるよ」


 ファンタジーを一つの力で束ねて、安定した世界を目指す。それで神凪が、もうこれ以上傷つくようなことが起こらないというならば……一国の王にでも何でもなってやろう。そのために、この島まで飛んできたのだから。

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