2.森に隠された神社
『見えてきたぜーっ、あれが隠祇島だ』
「へえー、けっこう大きいんだな」
船や飛行機も全く通らない、波の音だけが辺りを包む海域に突然、どどんと佇んでいる島。
もし結界がなく、自由に人が出入りできるならば、ある程度の大きさの街が栄えていてもおかしくはない……それほどの面積を誇っていた。
上鳴は、適当な開けた海岸の上へと降り立った。
「やっと着いた……、ずっと飛んでると流石に疲れたな。そもそも飛行機以外で空を飛ぶのなんて、これが初めてだし」
『お疲れさん。到着早々で悪いが、これから向かってほしい場所がある。道案内はオレがするから、あと少しだけ頑張ってくれ』
「はあ、今度は歩きかよ……」
慣れない飛行、それも大陸を一つ超えるほどの長距離フライトから休む間もなく、上から見た分にはかなりの面積を誇っていたこの島を今度は歩くことになるらしい。
***
降りた海岸からずっと続く林道をしばらく歩いて、ようやっと島の中腹辺りにまでやってきたであろう頃。日本ではさほど珍しくもない構造物が見えてくる。
赤色の鳥居――つまりは『神社』だった。
『ああ、一礼だのなんだのはいらないぜ。ここの神様はオレだから』
「良かった、お参りの作法とかあんまり覚えてなかったから助かるよ」
『それはそれで、日本人としてどうなんだ?』
こういった機会があるたびに、他人の見よう見まねで乗り越えてきた上鳴。二礼二拍手一礼みたいな、大雑把な所しか覚えていないのだ。
「ってか、お前は天使じゃなかったっけ? 天使と神様ってかなり違うと思うんだけど」
『まあ深い事は気にするな。この世界に直接干渉している、天界からの使者――なんだから、あながち間違いではないだろ?』
いやいや、適当すぎるだろ――上鳴はそう心の中で吐き出しつつも、天使である彼の前では声に出そうが心の中で留めておこうがどちらも変わらない事実を思いだす。
鳥居を潜ると、やはり日本ならば珍しくもない、それらしい和風の建物が建っていた。だが、ここが結界によって閉ざされた島で、しかも日本から遠く離れた地であると考えれば、この建物の存在がどこか浮いているようにも思えてくる。
その神社の本殿ではない、奥にある別の建物――たぶん社務所だろうか――の扉が開く。そこから出てきたのは、白い着物に下は緋色の袴姿の、黒い髪をさらりと伸ばした、上鳴よりも少し背丈の小さな落ち着いた雰囲気の女性。
彼女は起伏の少ない無機質な声と口調で、こちらへ話しかけてくる。
「お待ちしておりました、上鳴御削様ですね?」
「俺の名前を知っている……? あなたは?」
「私はこの隠祇島で巫女をしている、箱園紗々羅と申します。上鳴様がいらっしゃる事は、天津河神様から伺っておりましたので」
「あまつ、かわの……かみ?」
「はい、この神社に祀られている神様の名前です。まだまだ修行の身とはいえ、これでも巫女ですから。神様からのお告げを受けることくらいはできますよ」
「へえ……。って、ああ」
さっき、天河が『ここの神様はオレだ』とか言ってたような――そこまで上鳴は考えを巡らせて、ああと納得する。天津河神。略して天河になる訳だと。
なんだか安直だなあとか思っていると、上鳴にしか聞こえない声で『ほっとけ』とだけ返ってきた。やっぱりこちらが考えている事は口に出さずともバレバレらしい。
「上鳴様? 突然ぼーっとして、どうかされました?」
「ああ、いや何でもないよ。それで、俺を待ってたって……」
「詳しいお話は中でいたしましょう。どうぞ、お入りください」
巫女の後を追うように、神社の敷地内にある社務所へと向かうと、上鳴はもともと上履きだったが林道を歩いたせいですっかり泥だらけになってしまった靴を脱ぐと、外でパンパンと払ってから上がる。




