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終幕 電話越しに告げられたのは

 吹き飛ばされた左腕を見て、震えるような声を残して何処かへ行ってしまった上鳴御削(うわなき みそぐ)。もう時間は深夜の一時を過ぎているというのに、あれから病室に戻ってくることはなく、連絡さえつかない。


 神凪(かなぎ)は気になって眠れずにいた……そんな時だった。病室のテーブルに置いていたスマートフォンが振動し、着信を告げる。


「……比良坂(ひらさか)さん? どうしたのかしら、こんな時間に」


 神凪は予想もしなかった相手で疑問に思いつつも、その電話に出る。


『あっ、繋がった……! もしもし神凪さんっ! 御削くんの事、何か知りませんか!?』

「ちょっ、比良坂さん、そんなに慌ててどうしたのよ? まずは一旦落ち着いて、一から説明しなさい」

『ご、ごめんなさい。……実は、さっき――』



 ***



 神凪には思い当たる節があった。詳しい居場所までは分からない。だが、目的についてはある程度の目星がついている。


「まさか、御削――『王』に?」

『「おう」……って? 神凪さん、何か知っているんですか?』

「いや、アタシもこれ以上の事は知らないわ。国を作るってのに関しては初耳だし。でも、御削と天使の組み合わせってなったら、それしか思い当たらない」


 御削にはファンタジーを惹きつける体質があり、それが王としての適正を持っているという内容は、以前から神凪も聞いていた。だが、御削はあの時、喫茶店で『()()()()()()』――そう言ってくれたはずなのに。もしそうだとしたら、彼はやはり……。


『分かりました。こんな夜遅くにごめんなさい、神凪さん。色々と大変だと思うけれど……その』

「心配してくれてありがとう、比良坂さん。でも、こう見えてもアタシは強いんだから。大丈夫よ」

『はいっ、でも無理はしないでくださいね。困ったことがあれば力になりますから。では、失礼します』

「ふふっ、頼もしいわ。それじゃあね」


 最後にそう言って、電話を切った神凪の目には――大粒の涙が浮かんでいた。


 さっきまでのしっかりした声とは打って変わって、今にも壊れてしまいそうな震える声で、叫ぶ。


「心配してほしいのはこっちだってのに、なんでアタシが心配しなくちゃならないのよ、あのバカっ! そりゃ、アタシがちょっと油断しちゃったのが悪いかもしれない。けど、けど――ッ!」


 大丈夫なはずがなかった。左腕なんかよりもよっぽど大切な。身体の一部を失くしてでも、守りたかった存在を失くして。正気を保っていられるはずがない。


「バカバカバカバカ、バカああッ!! ちょっとは怪我人のアタシを、休ませてくれたっていいじゃないッ! さっさと見つけだして、耳にタコができるまで文句言ってやるッ! 今日という今日は、絶対に許さないんだからッ!」


 神凪は病室のベッドから降りて、窓をガタンと開く。そんな彼女の背中からは、深紅色の翼が生えていた。


 窓に足をかけると、そのまま――バサアアアッ! と音を立てて、夜空に片腕を失くした少女が飛び去っていく。

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