17.上鳴御削の失踪
ある日の深夜。天使を閉じ込めていた封印が何者かによって壊された事に気がついた魔法少女は、寝ぼけまなこを擦りながらも誰もいないはずの高校、さらに言えば天使が保管されているオカルト研究部の部室へとやってきた。
「……こりゃひどいや。いったい誰が……」
部室のドアは派手に蹴破られており、天使が入っていたお菓子の空箱はボロボロになっている。
しかし、隣に置いてあったもう一つの空箱はどうやら無事なようだった。自分が施した封印が壊されたか、無事であるかくらいは遠くからでも分かるので、事前に知ってはいたのだが、やはり現物を見るのが一番信頼性は高い。
まあ、片方が無事ならば――話くらいは聞けるだろうと、魔法少女は、無事な方の空箱に向けて声を掛ける。
「堕天使、ここで何があった?」
『上鳴御削がその箱をぶっ壊して、アイツを何処かに連れて行った。いや、上鳴御削が連れて行かれたと言った方が、ニュアンス的には正しいのかもしれねえが』
「ま、それはどっちでもいいんだけどね。で、肝心の場所は?」
『さあな。オギジマ、とやらに向かったようだが』
「うーん、聞いたことないなあ。何をしに?」
『「ファンタジーを一つに合わせて国を作る」とか言っていたな。アイツの事だ、「神族化」に向けた計画の一つだろうが』
「……なるほど全く分からん。調べてみるしかないかな。ありがとう、堕天使」
『聞いた事をそのまま伝えただけだ、感謝される筋合いはねえ』
可愛くない新入生だと心の中で吐き捨てながら、魔法少女はもう用もないので、すっかり荒らされてしまったオカルト研究部の部室を後にする。ついでに後片付けもしようかと思ったが、これは別に明日に回してもいいだろう。
***
『上鳴御削と天河一基が失踪した』
深夜。オカルト研究部のメンバー三人が参加している、メッセージアプリのトークルームへと送られた。
日付が変わってからしばらく経つが、メンバー全員がすぐに既読マークをつける。
『どういう事かな。また面倒事の予感しかしないんだけど』
『御削くんが……? 天使と、どうして?』
『ウチにも分からない。「オギジマ」とかいう場所に向かったって堕天使は言ってたけど、何か知らない?』
当然、『オギジマ』について、許斐も調べてはみた。幸い、現代にはインターネットという文明の利器がある。地名を入れるだけで、その座標から写真まで詳細に知ることができる時代だ。
だが、それらしい場所は見つからなかった。同じ読みの地名自体は見つかるも、上鳴と天使が向かう理由が見当たらないような、ごく普通の島ばかり。
「……何を考えているんだろう、上鳴君は」
だが、彼女は確信している。天使という存在が動き始めたことで、これからまた『何か』が起きようとしている事を。




