12.決戦の日
翌日。上鳴は、また用事があると神凪に告げて。ついでに今日が最後だと伝えると、渋々といった調子で了承してくれたので、早速あの男……戸破を探して尾行する。
もちろん、今回は情報収集の為の尾行ではない。影に隠れて追いかける彼の右手には、白い鉄製の杖が握られていた。
比良坂の道具を手にしたあの男を倒し、道具を取り返す。そして、こちらの落ち度で巻き込んでしまった『ファンタジー』な世界から引き剥がす。今日は神凪にも告げた通り、その決戦の日となるだろう。
今日もまた、立入禁止のグラウンドへと向かうその男。躊躇なく、黒い空間へと足を踏み入れるとやはり、スッ――とその姿が消えていく。
……今頃、彼はきっと驚いている事だろう。
それもそのはず。何故なら上鳴は、昨日――比良坂から《虚無世界行き鉄杖》を受け取った後、試運転がてら道具を隠しているであろう空間へと入り、目に付く道具、その全てを回収しておいたからだ。
だが、それで解決とはいかなかった。戸破が持っているであろう鉄杖や、銀色のレイピア、ハンドガンだったり、彼の知っている道具がいくつか見当たらなかったのだ。
おそらく、普段使いしている道具はまた別の場所にでも隠しているのか、常に携帯しているのか。いずれにせよ、争いの発生しない理想的な解決には至らなかった。
なので、ここであの男を追い詰め、残りの道具の場所を聞き出す。……そこまでしてやっと、この一件は解決となる。
「さて、そろそろ頃合いか」
上鳴もまた、立入禁止を示す黄色と黒のテープを乗り越えて。自分と相手以外、他には誰もいないであろう戦場へと向かう覚悟を決めると、あの空間へと繋がる黒い物質に飛び込んだ。
***
いつも通り、まだ試せていない道具の試用のために黒い空間へとやってきた戸破祐介だったが、目の前に広がる光景へ疑問を抱いていた。
「……昨日まであったはずの道具が、ない?」
有用と判断し、よく使う道具は、別の場所へとしまってあるのでそちらの方は無事であるが……問題はそこではない。
「つまり、僕以外にこの空間を見つけた人間がいる? まさか。こんな場所に飛び込もうとする奴がいてたまるか。僕のようにたまたま足を滑らせて落ちたとかならまだしも」
今では当たり前のようにここへと入り浸っている彼でさえ、立入禁止となっているグラウンドに奇妙な落し物があって、つい気になって見に行った――なんてキッカケがなければ、この場所の存在を知る事さえなかっただろう。
「という事は、この場所の事を知ったうえで? チッ、僕とした事が。誰だか知らないが、尾行でもされていたのか。何せ、この学校には昔も今も敵しかいないんだ、もっと周囲に気を使っておくべきだったか……」
と、そこまで考えたところで。彼の頭上から、突然確かな『衝撃』が落ちてくる。小柄な彼の身体が、その一撃によって虚空の空間を飛ばされて舞った。
だん、だん、だんっ! と転がり倒れる彼に向けて、一人の男の声が放たれる。
「……この前は散々な目に遭わせてくれたようだけど、今回はそうはいかない。二回戦を始めようか、戸破祐介ッ!!」




