幕間 完成、準備完了の合図
神凪と久しぶりの喫茶店で何気ない会話を楽しんだ日の夜。
比良坂から連絡があり、ついに黒の世界とこちらの世界を繋げる道具《虚無世界行き鉄杖》が完成したとの報告が入った。
彼女と上鳴の家は隣同士なので、わざわざ学校で受け取るよりも手間なく早いだろうとなり、夜遅くではあるが今日中に受け取る事となった。
「はい、御削くん。前に作ったものよりは開く速度とか、色々な面で性能が落ちているけど……なんとか形になったよ」
比良坂の自宅の玄関先で、パジャマ姿の彼女が手渡してきたのは、白い鉄製の杖だった。
「ありがとう、楓。流石の完成度だな……今度、改めてオカルト研究部にもお礼にいかないと」
「うんっ、いつでも遊びにきてね。待ってるから!」
遊びに行く訳ではないのだが――というツッコミはひとまず置いておくとして。
「とにかく、後は任せてくれ。比良坂の道具を悪用する奴は、俺が懲らしめて、全部終わらせてくるから」
「うんっ。わたしがぽんぽんと作っちゃったばかりに……ごめんなさい、御削くん」
「楓が謝ることじゃないさ。そもそも、道具の前に欲望を隠しきれずにその力に飲まれたあの男が一番悪いのは当然だし、天使と堕天使がケンカしたり、色々な出来事が重なってたまたま起きちゃったのが今回の一件なんだから。そう気負う必要はないよ」
解決のために尽力してくれた楓。原因となった道具を作った張本人とはいえ、糾弾されるような筋合いはないだろう。
「わたしも、もっと錬金術師として立派になって、自分で戦えれば……なんて」
「楓は錬金術師なんだ。できる事が多いに越したことはないだろうけど、向き不向きは誰にだってあるんだし、無理して楓が戦う必要だってない」
「そう……かな」
比良坂は、まだ納得していないようにも見えたが……そもそも彼女は錬金術師であり、その本質はあくまで『道具を生み出す』という一点が大きい。
確かに、自らの作った道具を駆使して戦うのだって錬金術師らしいと言えばらしいのだろう。上鳴と神凪の前に、様々な道具を携えて立ち塞がった比良坂は、確かに計り知れない脅威ではあった。
きっと、あの時の彼女ならば、今の問題である男、戸破祐介だって軽々と倒してしまうのだろう。
だが、それはあくまで《破滅の錬金術》を操っていた比良坂の話であり、今の彼女は違う。……錬金術師としては、今の比良坂だって、以前の彼女には負けているとは思わない。
「それじゃ、もう夜も遅いし、俺はもう帰るよ。……改めて、ありがとう」
「うんっ、御削くん。……後は、お願いします」
任せとけ、と一言返して、彼は比良坂の家を後にする。
ともかく、準備は整った。明日――この一連の騒動、その全てを終わらせる。




