10.いつの間にか頼もしく
グラウンドに今も残っている黒い物体。あれが、比良坂が以前作った《虚無世界行き鉄杖》による空間と繋がっているのであろう事を話すため、昨日に続いて今日もまた、オカルト研究部の部室までやってきた。
昨日はあまり話を大きくしないようにと比良坂にだけ話したつもりだったのだが、どうやら部員全員で協力してくれる運びとなったようなので、研究部全員に向けて上鳴は話を終えて――初めに、思い出したかのように口を開いたのは三年生、魔法少女と錬金術師の二人だった。
「ちょっと待って? あの黒い物体ってさあ」
「……ねえ、堕天使? まさかと思うけど、この事を知っていて、協力するだの何だのってほざいてた訳? 場合によってはそれなりの罰を受けてもらう事になるけど?」
『い、いやいや、俺もちょーっとだけ、薄々怪しいとは思ってたけど! でも、まさか本当にたまたま繫がっちまうなんて思わねえだろ、その、まあ――』
表情なんかは汲み取れないが、見るからに焦っているであろう。そんな堕天使に向けて、魔法少女の許斐櫻が容赦なく言い放つ。
「よしっ、そのお菓子の箱。好きにしていいよ!」
「ふっふふ、手始めに、軽く恥ずかしめの落書きとでもいこうか。覚悟はできているよね、堕天使?」
『おいッ、ちょっと待てッ! 俺だって少しは反省する気持ちもあったから、でも今更ンなこと言えねえだろと思って、せめて少しでも力になって――ッ!?』
すっかり収拾がつかなくなってしまった三年生二人と、定価一二〇円のお菓子の箱へと閉じ込められた堕天使はひとまず放っておくとして。
「ということは、やっぱり……」
「ああ。あの空間に置いてきた道具、全てをその男――戸破祐介に握られていると考えて間違いない」
戸破祐介。今日の昼、学校内で聞き込みをして知った、あの男の名字と名前だ。知らなくても困りはしないだろうが、知っていて損もないだろうとついでに調べておいたのだった。
「俺の方で調べられた情報はこのくらいかな。楓の方は?」
「わたしの方は……思ったよりも順調に進んでいるのかな。閉じることはまだできないけれど、強引に穴を開けてこっちと向こう側を繋げるだけならついさっき成功したから、明日中には何とか仕上げられるかな」
「本当か!? いや、もっと時間が掛かるものかと思ってた。空間を操る杖なんて、そう簡単に作れるもんじゃないだろうし……」
早くても数週間とか。杖が完成するまでにはかなりの時間を要するだろうと考えていた上鳴にとっては、嬉しい誤算だった。
「蓬先輩が力を貸してくれたり、堕天使さんの知識があってこそ、だけど……。わたし一人じゃ、いつまで掛かっても希望なんて見えなかっただろうし」
比良坂はそう言うが、周りの協力があった事を加味しても。それは凄い事であるのには変わりない。それに、あの杖の作成をお願いする以前よりも、錬金術師としての頼もしさがより一層増しているように感じた。それはきっと、上鳴も知らない所で彼女がここまで成長できる、キッカケのようなものがあったのだろう。
もう、《破滅の錬金術》なんかに飲まれて、その力に縋るしかなかった彼女はどこにもいないんだと。そう実感させられる。
「それじゃ、楓。《虚無世界行き鉄杖》の事――任せたよ」
「任されました。わたしは錬金術師として。御削くんのこと、これからもたくさんサポートするからっ」
「ありがとう。頼もしいよ」
漏れた言葉は、上鳴が心から感じた――そんな言葉であった。




