7.ズルと近道
「なるほど。その成長速度はきっと、その《破滅の錬金術》なる物を扱っていた経験からだろうと」
「はい。……蓬先輩にはたくさん褒めてもらったりして。それなのにわたしは、そのことを黙っていたままで……ごめんなさい」
「うん? 何故、楓が謝るのか……私には理解しかねるけど」
それは、擁護とかそういった意味合いではなく――心から意味が分からない、と思っての言葉だった。
確かに比良坂が話した内容は全て聞き、理解した。そのうえで、七枝は疑問の表情を浮かべていたのだ。
「私はあくまで、今の楓を褒めた訳で、そこに至るまでの過程を褒めた訳じゃない」
「……そう、ですか? わたしは過程も大事だと思います。蓬先輩だって、その先生から色々と教わって、やっとの思いで錬金術を習得したって聞きました。他の錬金術師だってそうです。なのに、わたしだけは大した苦労もしないで錬金術の力を自分の好きに振るっていたんですよ。そんなの、ズルじゃないですかっ」
彼女の反論を聞くに、そもそも七枝と比良坂では考え方そのものが違うらしい。これでは永遠に話の決着はつかないだろうと判断した七枝は。
「大前提として、寿命を代償にした《破滅の錬金術》を錬金術の上達の近道にする。それを楓は『ズル』だと思っているようだけど、私はそうは思わない。その経験を活かして近道ができるのなら、ズルだろうとなんだろうと、構わないんじゃないかって思っているよ」
「……腹は、立たないんですか?」
「どうして? 私は私のやり方でここまでやってきた。楓は楓で、キミなりのやり方で錬金術を学んでいる。ただそれだけの事だよ」
当然、彼女のやり方をよく思わない人だっているだろう。彼女の言う通り、『ズルだ』と糾弾する錬金術師だっているかもしれない。万人に認められるような、輝かしい経歴ではないのはもちろんだ。
……だが、少なくとも七枝蓬という一人の錬金術師にとっては――比良坂がずっと心の内に隠していたのが馬鹿らしく思えてしまうくらいには――その程度の悩みなんて、あまりにくだらなく、ちっぽけな物だったらしい。
思わず、黙りこくってしまう比良坂に対して、ガラガラガラ、と扉を開ける音と共にまた別の声がかけられる。
「楓はちょっと考えすぎな所があるからなあー。蓬だって、そう簡単に楓のことを嫌いになったりしないよ?」
「う、うわっ!? 櫻先輩? お仕事、もう終わったんですね。……というか、聞かれちゃってたんですね……」
「うん。ウチ、こう見えてけっこう強いからねー。話はわりと最初の方から盗み聞きさせてもらってたよっ」
部室へと戻ってきたのは、白とピンクのフリフリ衣装を身にまとった、魔法少女の許斐櫻だった。
比良坂が上鳴と話している間に、どうやら『敵』が現れたらしく、魔法少女としての役目を果たすべく出て行ったのだが……時計の長針はまだ一周すらしていない。彼女の戦いっぷりをこの目で実際に見たことがない比良坂でさえ、流石だなあと思ってしまう。
そんな許斐は、比良坂の覚悟とは裏腹に、あまりに軽い調子で続けて。
「誰にだって黒い過去はあるだろうし、それを話したら嫌われるような関係なんて、その程度だったって割りきっちゃえばいいんじゃないかな? ウチはもちろん――また新しい楓の一面が知れて、よかったって思ってるよっ」
「ま、そういう事。人間、隠し事の一つや二つはあって当然だし、何でもかんでも話せって訳ではないけれど。変な心配なんてせずに、困った事は何でも相談するべき」
だが、実際話し終えてみると――不思議と気分は晴れやかだった。相談する前までは、恐怖や気恥ずかしさという感情に苛まれていたのが嘘みたいだ。
「……はいっ!」
すっかり元気を取り戻した比良坂は、元気に返事をする。今では、相談して正解だったと――心から思うのだった。




