4.急ぎ戻った教室で
自宅に強制送還されてしまった上鳴御削が、残されたタイムリミットはたったの一〇分で、家から学校まで特別近い訳でもないのに再び学校まで戻ってこられるはずもなく。
何とか五分オーバーまで抑え込んだにしろ、当然、五限目は遅刻扱いにされてしまった。
正直、このまま勝手に早退してしまおうかとも悩んだが、あの《刻限の指針》が戻すのは突き刺さった物だけであり、身に着けている物はどうやらそのままらしい。
身体のついでに刺さった制服はともかく、靴や荷物の入ったカバンなんかは当然、一緒に巻き戻ることはなく学校に置きっぱなしになってしまったので、不本意ではあるものの仕方なしに再登校したのだった。
どうせもう一度学校にいくのなら遅刻は免れたいと全力ダッシュで戻ったのだが、その努力は報われなかった。
それに、靴や荷物がどうであれ。比良坂が錬金術で作った道具を何故か持っていて、あろうことかその力を無秩序に振るう者がいると知れば、見て見ぬふりをして放っておく訳にもいかないだろう。
「御削、そんなに疲れて。アンタ一体、どこにいってたのよ?」
「ああ、まあ、色々と……」
急に教室全体が静かになったのが、余計に気恥ずかしさを感じさせる中、隣の席に座る赤髪の少女、神凪麗音が声を掛けてくる。
学年も上がり、クラス替えといったイベントを経て。離ればなれになってしまうだろうと危惧していたが、運良くまた一年、神凪とは同じクラスになったのだった。
他には天河なんかも同じクラスだったのだが、新学期早々暴れ散らかした結果、魔法少女によって今もお菓子の箱にその存在を封印されているので当然彼の姿はない。
改めて、偶然にしては都合が良すぎるなとも思いつつ。隣の彼女に、昼休みに起きた出来事について話すかどうか少し迷ってしまう。
正直、一人で何とかできる範疇はとうに超えている。あの男から比良坂の道具を取り返すまでなら、彼一人でもまだ何とかなるだろう。……しかし、問題の本質は『封印したはずの比良坂が生み出した数々の道具が、こちらの世界に漏れ出てしまっている』ということ。
となるとファンタジーな分野について、専門的な知識を借りたいのだが……神凪にはここ最近の騒動、その全てにおいて助けを借りてしまっているので、どこか申し訳ないと感じてしまうのだった。
(今回ばかりは神凪を巻き込む訳にはいかない、か。それに、その必要もなさそうだ)
神凪は錬金術という存在自体は知っているものの、錬金術師ではない。
錬金術の道具で容赦なく襲い掛かってくるあの男を相手にするのに、神凪の手助けがあれば心強いのには違いないが、知識の面で言うならばそもそも、神凪ではなく作った本人に聞くべきだろう。
「……何ぼーっとしてるのよ?」
「ん、ああ。少し考え事だよ、別に大した事じゃないさ」
「うーん、変な御削。ま、大したコトじゃないならいいんだけど。まさか、また変な事件にでもに巻き込まれたのかと思ってね」
こういう時、神凪は妙に勘が鋭い。
……だが、たまには神凪の力を借りずとも、このくらいの問題なら解決できると証明しなければ。伊達にここまで、あらゆる『ファンタジー』を相手に戦ってきた訳ではない。
多少自惚れすぎと言われてもあまり強くは言い返せないが、今更、ただ道具を手にしただけの一般人相手に遅れを取るとは思えないのもまた事実だろう。




