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2.世界から封じたはずの道具

 何気ない平日の昼休み。上鳴(うわなき)が適当に校舎を歩いていると、誰も近寄らないような廊下の袋小路(彼は主に追試やらでお世話になる、基本は誰も使っていない空き教室があるのだが)で見てしまった。


「僕さあ。今日、ゲーセン寄ろうと思ってんだけど。……分かってるよね?」

「てンめええッ! 三軍のクソが調子に乗りやがっ――」


 傍から見れば、ただのカツアゲにしか見えないだろう。……人数差とか見た目とかから、どこか立場が逆転しているようにも見えるが……彼にとって大事なのはそこではない。


 上鳴が注目したのは、カツアゲしている側の、小柄な男が手に持っている白いハンドガンだった。


 彼は、それに見覚えがある。


「あれって確か、比良坂(ひらさか)の……?」


 一部ならともかく、パーツ全てが白塗りのハンドガン。そんな特徴的な見た目をした物、一度目にすれば忘れる事はないだろう。


 それは、比良坂が以前に《破滅の錬金術(ロヴァス・アルケミー)》で生み出した道具の一つで、トリガーを引くだけで『ソニックブーム』を起こすことができるという危険なハンドガンだったはず。


 だが、比良坂が作った道具は戦いの後に、全てあの黒い異空間へと封じ込めていたはず。もちろん、異空間とこちら側を繋げるのに必要な道具、《虚無世界行き鉄杖(ニューディメンサー)》も一緒に。


 それが上鳴の見間違いだった、という可能性は、男三人組が去った後に一人つぶやいた彼の独り言が否定した。


「いい……いいね……、やっぱり『力』を持つ者が正義なんだ、この世界は。この道具があれば、僕もこの世界の『主人公』なんだッ!」


 銃たった一つで、体格差や人数差もある相手を怯ませられていた事。そして、彼の言葉からも確信した。あれはやはり、錬金術で作られた道具なのだ。


 だが、彼が『ファンタジー』の世界に精通している錬金術師には見えなかった。錬金術師に限らず、彼の知っているファンタジーに精通している者は皆、こう大っぴらにくだらない事でその力を見せつけるように振るったりはしない。


 となると、最近力を手に入れたばかりの――まさか、かつての比良坂も触れ、乗り越えた《破滅の錬金術》かとも疑ったが恐らく違う。


 いくら寿命を対価に高度な調合を可能にする《破滅の錬金術》とはいえ、あれほど多くの道具を作り出せたのは比良坂の努力による部分も大きい。現に、彼女は再び錬金術を学び、着実に実力を付けているのだから。


 しかし、とてもじゃないが――あの程度の力を手にしてあれほどの愉悦に浸っているような彼が、そこまでの努力を出来るような人間には思えない。


 確証はない。が、ほとんど確信を得ていた彼は、気づけば道具を握る彼の元へと走りだしていた。

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