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15.魔法少女の封印

 堕天使ツァトエルの『本命』を直で受け、身体のほぼ全てを黒に染め上げられてしまった天使、天河一基(あまかわ いつき)


 だが、たった一撃でその存在ごと消し飛ばせるほど、天使という存在は甘くない。


 天使としての力、その全てを防御力に割き、全身とは欲張らずに身体の一部分だけでも残すように守りを一点へと集中させれば、全てを黒に塗り替える一撃とはいえギリギリのところで耐えられるのだ。


 身体の一部分さえ残っていれば、これからかなりの時間がかかるにせよ、少しずつ肉体を再生して元通りの姿にはなれるだろう。また、ある程度の力を取り戻して、自分の好きに移動ができるようになれば、また天使としての力を振るう事ができる()()()()()()()だって彼は残している。


 再び力を取り戻した暁には今度こそ、あの堕天使を存在ごと消し飛ばしてみせる――。


 そう心の中で誓うのは、黒に侵食されゆく身体から咄嗟に切り落とした、もはや元々どこの部位であったかさえも判別不能な、地面にぽとんと落ちる小さな肉片だった。


 今は動く手段もないので、まずは最低限の大きさで足だけでも元通りにして、とにかく安全な所へ。……なんて考えていると、こちらに向かってくる人間が、ただの肉片であるはずの彼をおもむろに拾い上げた。


 それは、薄桃色の髪を地につきそうなまでに長く伸ばし、白とピンクのフリフリ衣装を纏う少女だった。


「流石は天使、こんな欠片みたいな状態でも、魂だけはしぶとく生き残ってるなんてね。何を企んでいるのかは知らないけれど、残念ながらこの『箱』に封印させてもらうよっ」


 ちょっと待て、と肉片はテレパシーを通じて少女へと叫ぶ。しかし、その声が届いているはずだが、何を伝えても彼女の動きはもう止まらない。


「シエルネート・ツェル・アンフェイン――」


 魔法少女がどこからか取り出した『箱』を開くと、その中はキラキラとした星空のような空間が広がっており、まるで掃除機のようにその箱の中へ、肉片に宿っていた金色の魂、天河一基という天使の存在を吸い取っていく。


「コンティッド・エスファーム――ッ!!」


 そして、天河の存在そのものを収めた『箱』の蓋は、隙間の一つさえなくしっかりと閉じられる。


 封印に使った箱は、たまたま彼女が持っていたものをとりあえず使ってみたせいか、見た目上はどこか頼りない気もするが……とにかくこれで封印は完了した。


 ()()()()()()()、ではあるのだが。


「さーて、もう一人。堕天使の方は……あの二人がやっちゃってくれたみたいだね。ウチの仕事って、もしかして最後の封印だけ?」


 見ると遠くの方では、紫髪で長身の男――堕天使のツァトエルが地面に倒れており、どうやら動くような気配もない。


 だが、封印をしておかないと気がついてからまたいつ暴れだすかは分からない。魔法少女、許斐櫻(このみ さくら)はもう一つ、異空間に繋がる魔法少女の衣装についたポケットへ手を突っ込んで、また別の箱を取り出しながらも意識を失っている堕天使の元へと走っていく。

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