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3.お茶の時間の来訪者

「へえ。基本的な知識だったりはこれから勉強が必要だろうけど、感覚的な部分は十分すぎるくらいには理解しているみたいだし。これは期待の新人かもしれない」

「あ、ありがとうございますっ、(よもぎ)先輩」


 過去、人に錬金術を教えた経験もなく、どうすればいいか迷っていた七枝(ななえ)が思いつきの『とりあえず、私が手伝うからまずは簡単な薬でも調合してみようか』という言葉を皮切りに。早速、比良坂(ひらさか)は彼女のサポートを受けつついきなり調合をする事になった。


 初めは七枝も、手取り足取り、どこで何を入れて、どうかき混ぜるか――とあれこれ教えるような形ではあったのだが……呑み込みが驚くほどに早く、そこまでのサポートは必要なかったらしく。途中からは必要な知識、手順なんかを横から口頭で教えるだけに留まっていた。


 それでいて、たしかに簡単な薬の調合ではあるものの、それでも調合という錬金術において最も重要な工程を最後まで完了させてしまった事に七枝はもちろん、当の本人である比良坂まで驚いてしまう。


「もしかしてだけど、調合は初めてじゃなかったりする?」

「あっ、はい。本当に、()()()()()ですけど……」


 前に《破滅の錬金術》で何度も調合を続けたのが、少しでも役に立っているのだろうか、と比良坂は考えてみる。お試し程度、と言うにはちょっと溺れすぎだったようにも思えるが、嘘はついていない。彼女にとっては錬金術というものを知るキッカケとなった『お試し』と言ってもあながち間違いではないのだから。


 だが、あの過去は比良坂にとって『黒歴史』のようなものでもあった。なので、彼女はまだこの事を話さずに、今は濁しておく事にした。


「さて、(さくら)の視線も気になる事だし、今日は終わりにして……お茶にでもしようか」

「よっし、待ってましたあっ!」


 若干ふてくされ気味に、テーブルに突っ伏していた魔法少女、許斐櫻(このみ さくら)がその言葉に反応してびくんと起き上がる。


 そんな彼女を横目に、部室の棚からティーカップを取り出す錬金術師らしくローブ姿の七枝。


「あっ、わたしも手伝います」

「ああ、いいよいいよ。これは私の趣味みたいな物だからね」


 ひと調合終え、すっかり部室のイスに座っていた比良坂も、こうしちゃいられないと慌てて立ち上がり手伝おうとするが、ここまで言われたら……と今日だけは先輩のご厚意に甘えさせていただく事にした。


「今日のお菓子は……おおっ、大福だ」

「私の家は和菓子屋さんだから、売れ残っちゃったのが余るんだよ。だから(ふう)も、人助けだと思って遠慮せず好きなだけ食べて」

「うわあ、美味しそう。ありがとうございますっ!」


 七枝が白い大福を袋から皿へ出すと、そこには薄皮から中のあんこがたっぷりと詰まっているのが外から見ただけでも分かるそれが、これでもかと山盛りに積み上がっていた。三人がかりでも食べ切れるかどうか、微妙な量だ。

 

 早速、山盛りの大福をいただこうと三人が皿に手を伸ばした――その直後だった。


 ガタンッ!! と、マナーのマの字すらない、ノックもなく突然、部室のドアが横開きに勢いよく開け放たれる。


「……突然ノックもなしとはいい度胸だね。私は嫌いじゃないけど」

「新入生、かな? ひえぇ、肝が座ってるなぁー」


 開いたドアの先に立っていたのは、紫色のマッシュヘアと高身長が特徴的な男の姿だった。あれだけ目立つような外見の人物、しかし三年生である二人でさえこの学校内では見覚えがないので、許斐はそう結論づけた。


 一方、戸惑いながらその姿を見つめる比良坂だが、彼の事は知っていた。といっても同じクラスではないし、直接会話したりと関わりがあった訳ではない。入学式で見た記憶があるのと、おそらく同じ学年なのか、廊下で何度もすれ違っているので見覚えだけはあったというだけだ。というか、紫なんて派手な髪色にマッシュヘア、一度目にすれば忘れるはずもないだろう。


 そんな彼は開口一番、この場の誰もが予想もつかないであろう、突拍子のない言葉を口にした。どうやら探し人らしい。が、その探している相手がまたぶっ飛んでいた。


「……ここに『天使』は居るか? 居場所を教えてくれるだけでもいいんだが」


 部室に、一瞬理解が追いつかなかったのか、ぽかーんみたいな効果音が流れていそうな雰囲気に包まれる。


 だが、この部室にいるのは全員『ファンタジー』の世界を知っている者たち。その男の放った言葉が()()だろうと理解した途端、一転して凄まじい緊張感がこの場を支配する。

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