7.錬金術に溺れた幼馴染
上鳴御削が、慌てて隣人で幼馴染である比良坂楓の部屋へと飛び込んでいく――その少し前に、時間は遡る。
「えっ、楓が学校にも行かなくなった……んですか?」
比良坂に錬金術を見せてもらったあの日以来。上鳴は、彼女と直接話す機会がなかったのと、チャットアプリでの会話ではいたって普通だったおかげで知る由もなかったが――。
どうやら錬金術にのめりこんだ比良坂は、すっかり学校も休み気味になり、部屋から出てくる事も少なくなっていたらしい。それに、錬金術をしている最中の彼女はとても攻撃的で、話も聞いてくれないらしい。
それを聞いたのも、このままではまずいと彼女の母が説得するも、全く聞き入れてもらえず、親として手がつけられない状況になってしまった。
そこで、幼馴染という親とはまた違った立場で、楓とも距離がある程度近い存在である上鳴であれば――と、彼の家を訪ねて来たのがきっかけだった。
「親として情けない話ではあるのだけれど――どうか、楓に言ってやってほしいの。お願い、御削君」
「はい、もちろん。……楓、受験だって控えてるのに、このままじゃ……」
比良坂は中学三年生。二月も終わりかけで、高校受験に向けてラストスパートといった大事な時期でもある。
幸い、志望校は勉強が大嫌いな上鳴でさえ無事受かった高校で、レベルもさほど高くなく地域的にも競争だって特に激しくないので、勉強は卒なくこなせる彼女には無用の心配かもしれないが――。
だが、その話を聞いただけでも、比良坂の錬金術に対するのめり込み具合はもはや病的と言える。
無事高校に入学できたとしても、彼が心配になったのはその先だ。いくら勉強が何とかなっても、出席日数なんかは後になってからじゃどうにもならない。今のまま錬金術にのめり込む生活を続けていればきっと、高校だってすぐに退学してしまい、さらに引きこもってしまう――そんな未来が安易に想像できる。
こうして彼は、錬金術に溺れた幼馴染を元の生活に連れ戻すべく――比良坂楓が今も錬金術をしているであろう部屋に向かうのだった。




