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幕間 錬金術の到達点へ

 一年の中でも少し短い二月が、そろそろ終わりを迎えようとしていた頃。なんの変哲もない住宅街に建つ、ごく普通の一軒家、その一室では――。


「……で、できちゃった……」


 なんの取り柄もないはずだった少女、比良坂楓(ひらさか ふう)。爆発を起こしてしまい、軽く騒ぎになったあの失敗からも変わらず、錬金術の練習を続けていた。


 なんなら、あの失敗によってより一層奮い立つかのごとく、錬金術へ取り組むようになっていったようにも思える。


 ……そんな彼女の手には、他の金属とは比べ物にならないほどにずっしりと重みのあって、他では出せない輝きを放つ金属があった。


 彼女の扱う『錬金術』――その名にも冠する金属であり、先人達が一つの目標として掲げ、それを生み出すべくあらゆる試行錯誤が重ねられてきた――まさしく『金』という金属だった。


 そう、錬金術における一つの到達点に、彼女は二ヶ月もかける事なく達してしまったのだった。


 ケーキの調合でさえ驚いてくれた上鳴(うわなき)神凪(かなぎ)に、これを見せればさぞかし驚いてくれるだろうなあ、なんて想像をしてしまう。


 ただ、もちろん『金』の調合に成功したり、今では物理法則さえも塗り替える魔法の道具だって作れるまでになった反面、弊害もあった。


 錬金術に没頭するあまり、他のことがおろそかになってしまうのが最近の悩みでもある。


 彼女自身もこのままじゃダメだろうと自覚しつつも、ついやってしまうのが、錬金術に没頭するあまり学校を休んでしまうのが日に日に増えつつある事。


 また、場所もキッチンではなく部屋に本格的な大釜を設置して、そこで行うようになった。そのせいか、家族と顔を合わせる回数もどんどん少なくなっていった。一日に一度も部屋から出ないのだって珍しくもない。


 今は中学三年生の二月。高校受験を控えている大事な時期と分かっていても尚、勉強そっちのけで錬金術に没頭し続ける――そんな日々を送っていたのだった。


 正直、自惚れているという自覚はある。だが、やっと見つけた、平凡で何もないと思っていた自分に眠っていた、唯一無二の才能。少しくらい調子に乗っても、きっとバチは当たらないだろう。


「よーしっ。金も作れるようになったし、次は――」


 金を錬成できた所で、それはあくまで到達点の一つにすぎない。錬金術はまだまだ奥が深く、無限の可能性を秘めている力なのだから。


 さらなる高みを目指すべく、彼女が再び錬金釜の前に立った――その時だった。


(ふう)ッ! 部屋、入るぞ!」

「……えっ!? その声、もしかして御削(みそぐ)くん? どうして――」


 あまりに突然だった。ずっと昔から聞き慣れている、一人の声がドア越しに飛んでくる。比良坂の幼馴染――上鳴御削だった。


 思わず驚く彼女が言い終える前に。部屋のドアがバアンッ! という音を立てると同時、豪快に開け放たれる。

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