幕間 あくまで傍観者を貫きながら
「おっと、始まったねえ」
制服姿で、二メートル近い高身長ながらも高校生である『傍観者』は、廃墟と化した校舎の中で、うんうんと頷きながら呟いた。
神凪の秘密を知っている以外は普通の高校生であるはずの彼、上鳴御削が戦っているにしては少々音が激しすぎるような気もするが、どうやら相手は『エルフ』らしいし、そんなものだろうか? と勝手に納得しておく。
あくまで傍観者としての立場を貫き通すべく、表舞台には絶対に姿を現すつもりはない彼、天河一基ではあるが、そんな彼は彼でこの舞台裏にてやるべき事がある。
「さあてと、こっちも始めるとしますかねえ、『ゴミ掃除』。祭壇を荒らして、儀式を遅らせるだけじゃどうやら足りなかったらしい。エルフとドラゴンが戦って、まさかエルフが優勢になるのが予想外だった――ってのもあるが、ドラゴン側が思ってた以上に弱かったのと、エルフ側が想像以上に厄介な相手だった……ってのが重なった結果か」
あくまで個人的な感想をぼそぼそと述べながら、彼は、この廃墟のあちこちにまるで罠を張り巡らせるかのように散りばめられているサッカーボールくらいの大きさをした、見るからに怪しい球状の物体を持ってみる。
桃のタネをひたすらに巨大化させたような見た目のそれは、中に何かがぎっしりと詰まっているのだろうか。大きさの割に、金属でも持っているのかと錯覚するほどに、ずっしりとした重みが感じられた。
一つ運ぶだけでも十分に重労働ではあるのだが、力には多少の自信がある彼は、一度に四、五個ほど抱えると――それらを元は音楽室だったのだろう無数の穴が開いた壁に囲われた広めの部屋へとおもむろに放り投げて、あちこちに置かれていた球体を一箇所へと集めていく。
また別の部屋からも、それらを見つけては一箇所に集め、再びその球体を探して――を繰り返して。気づけば、ずっしりと重たい球体は音楽室に数十と山のように集められていた。
額に流れる汗をスマートに拭いながら、天河は呟いた。
「まったく。廃墟とはいえ、ゴミを捨てるとこの日本じゃあ不法投棄になっちゃうんだぜ? 郷に入っては郷に従え。この国のルールだし、仕方がないよなぁ?」