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3.怪しげな商売人

「それにしても、ここが海に浮いているだなんて、未だに信じられないなー」


 許斐の言った『ここ』とはまさに、空港はもちろん、周りのビルといった建物が建ち並ぶこの土地自体の話だ。


「世界最大の人工島(メガフロート)……とはいえ、都市自体が海に浮いているなんて、世界でもここだけだし」

 

 そう。島の中枢となる各施設が集まる中央島を除いて、他の区画は例外なく人工的に海へと浮かべられた『人工島』なのだ。


 中央島よりも大きなそれがいくつも集まり、計八つの人工島を含めた島々が、人口五◯◯万人を超える都市を形成している。こんなにもファンタジーじみた都市、世界の何処を探してもここ以外には見つからないだろう。


 そんな世界で唯一の海上都市を歩いていると、不意に、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「どんな痛みでも即座に和らぐ、間倉(まくら)印の秘薬ですよぉー。ああ、いらない。そうですかぁ……」


 ふと、その声の先に視線を向けると――やっぱり。屋台を構えて、何やらアヤシイ薬を売り捌いているのは、七枝(ななえ)にとって錬金術の先生である間倉魅能だった。


 はあ、とため息をつきながら、七枝は呆れ気味に近づいていき。


「……何やってるんですか、間倉先生」

「あっ、(よもぎ)ちゃんじゃない! それに、みんな勢揃いで……どうしたのかしらぁ?」


 冷ややかな視線で声をかけた七枝に対して、その女性は陽気に返してくる。


 相変わらずのマイペースっぷりに、四年の時が経っても変わらない安心感を覚えてしまう。


 ……そう。四年前のあの事件から、再び旅に出た間倉だったが、連絡手段を持たず一方的な手紙しか寄越さないので、少なくともこの場の四人が彼女と会うのは丸々四年ぶり。


 ただ、この隠祇島には何度か訪れていたらしく、()()()()()()面々は会っていたと聞くが。


 ――というか。


「どうしたのかしら、じゃないですよ先生。今日は何の日か分かってるんですか。こんな所で露店を開いてる場合じゃ……」

「ほら、ここ最近って、錬金術師に対しても風当たりが強いでしょう? だから、こういう商売がしやすい場所まで来た時に、たくさん稼いでおかないと……旅の資金がすぐ底を尽きちゃうのよねぇ」


 とはいえ、こんな日にまで商売をしているとは、商魂たくましいというか何というか。野垂れ死なずにここまで旅を続けてこられたのは、そのコンクリートを貫通して生える大根にも匹敵する根性があってこそなんだな……という言葉を、七枝はそっと心の奥にしまっておく。


「とにかく。行きますよ先生。ここまでの旅費くらいはあの二人が経費から出してくれますから、多分」

「ちょ、蓬ちゃん!? もう少しだけ、あと一時k――」


 子供みたいなわがままを言う先生を強引に引っ張り、再び目的地へとその足を進めるのだった。

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