1.あれから四年経ち
世界中を震撼させた《神の子》、そして『天使・レクトーラ』の一件から、じつに四年もの年月が流れた。
この四年間、世界が大きく変わってしまうくらいには、様々な出来事があったのだが……政治的な、後々語るにはあまりに下らない内容がほとんどを占めていたため、ここであえて多く語る必要もあるまい。
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「でも、隠祇島に行くのも楽になったものだよねー」
「まあ、国内線とはさすがに別枠のようだけど、日本が統括しているだけあって、海外よりは気軽に行けるようになったし」
新たに発見された島――厳密には隠されていたという方が正しいのだが――では、その島のさらなる開拓を進める代表者が日本人であること、そして資金も日本が一番多く出資していることもあり、世界的にも隠祇島は日本の領土という扱いになっていた。
よって、日本からならば、面倒な手続きもなく出入りが可能になっている。アメリカを経由してバミューダ諸島まで行き、そこから船で島へと向かった四年前が懐かしくも感じる。
「ウチらが最後に行ったのって、二年前とかだよね? あれからどう変わったか、楽しみだなーっ」
「ああ、久しく会ってない人も多いし、本当楽しみだよ」
許斐櫻と七枝蓬の二人は、あの一件から二年間は定期的に隠祇島へと通っていた。錬金術や魔法といった力を扱う貴重な人材として、島の発展のお手伝いをするためだった。
だが、隠祇島にも人が増えたのと、二人の私生活もそれぞれ忙しくなりつつあったため、ここ二年くらいは顔を出すことさえ叶わなかったのだ。
許斐は高校を卒業したと同時に魔法少女を引退し、将来の夢を叶えるべく、ごくごく普通の、調理系の専門学校へと通っていた。
料理とは縁遠かった彼女だが、今ではレシピさえあればある程度の料理は作れるまでには上達したのだった。
そして七枝は、高校を卒業後は実家の和菓子屋を継ぎ、店主としての仕事を立派にこなしている。当然、その傍らで錬金術の研究も忘れてはいない。
……だが、そんな二人でさえ、この四年間での変化は乏しい方だと言えるだろう。あの時、隠祇島で天使と戦ったメンバーが、ここには二人しか揃っていないのがそれをよく表している。
まあ、四年も経てば、一度集まったメンバーが散り散りになってしまうのも仕方がないだろう。
ただ、今日は、そんな散り散りになったメンバーが(おそらく)全員、久々に集結する日でもある。
何故なら、今日は隠祇島にとってはもちろん、全世界にとっての歴史に、新たな一ページを刻む――そんな一日となるのだから。