表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/148

終幕 一つに束ねて……

 立ち上がった上鳴御削(うわなき みそぐ)の腕から先は、みるみるうちに巨大化し――目も眩むような虹色へ、光り輝いていた。


「御削、それって……」


 傍らの少女、神凪麗音(かなぎ れおん)が呆気に取られたような視線を送る。が、その矛先である少年は、その右拳に起きている現象とは裏腹に、平然とした佇まいで言葉を返す。


「何も、難しいことはしてないさ。俺の体質で、みんなのファンタジーを一つに束ねて――」


 そして彼は、全身全霊の力を込めて、右拳をまるで弾丸のように。


「 ぶ ん 殴 る ッ ! 」


 ――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!


 その瞬間、彼の放った一撃による轟音が、世界中の音を上書きした。そして、虹色の右拳は、数百もの世界を『神族化』してきた天使、レクトーラをも――いとも容易く、塗り潰してしまった。


 あれだけの攻撃を浴びせて、それでもケロッとしていた天使が、たった一撃で。


 それを見ていた周りの人々も、ただ口をぽかんと開いて、愕然とするしかなかっただろう。それほどまでに、現実離れした……そんな一撃だった。あの一撃に、自分の力も加わっているんだということさえ、思わず忘れてしまうようで――。


「……やった、の?」

「ああ」


 すっかり虹色の一撃は消え。隣に倒れていたドラゴン少女、神凪麗音がなんとか立ち上がって、問いかける。


 事実、その場にいた深海のような青髪の天使の存在だけが、この場から跡形もなく消え去っていたのだった。


 『ファンタジー』を一つに束ね、『奇跡』へと昇華させる。……それこそが、彼の体質の、真の存在意義だったのだ。



 ***



 上鳴御削を連れ帰り、この世界ごと滅ぼしてでも天界へと帰るために、その圧倒的な力を振りかざしていた天使・レクトーラ。


 しかし、それさえも、上鳴が束ねた一つの『ファンタジー』によって、あまりにもあっけなく討ち滅ぼされた。


 ただ、この一連の騒動がこれで終わり――ともいかなかった。天使の圧倒的な存在感からか、動きを止めていた《神の子》たちが、破壊活動を再開したからだ。


 だが、この場にはありとあらゆるファンタジーが集結している訳で、天界から力の供給がなくなったいま、それらを倒すのはあまりに容易いことだった。……結果だけを考えるのなら、ではあるが。


「これって……人を殺し回っている、みたいなもの、なのよね」

「……でも、このまま放置する訳にもいかない。麗音は全部終わるまで、そこで待っててもいいんだぞ」

「いや、アタシもやる。いい加減、自分の役目すら果たせない、弱い自分とはオサラバしなくちゃだしね」


 そもそも、神凪麗音の役目とは『異能』を殺し、世界のバランスを守るというものだったが、それは果たせなかった。()()という一線を、彼女は超えられなかったからだ。


 だが、今の神凪は、役目を果たせずにいたあの頃とは違う。――そう自分に言い聞かせながら、金色をまた一体、その燃え上がる右拳で焼き尽くす。


 周りを見れば、魔法少女や錬金術師、巫女に探偵といった各々をはじめ、その場の全員が片っ端から《神の子》を殲滅(せんめつ)していた。


 だが、それらは人間から羽化した存在であり、実質的には人間を葬り回っているのと同義だった。


 誰もが無事に終わる、完璧な結末ではない。それでも、迎えてしまった結末の中で、最善を尽くすしかない。故に、重苦しい雰囲気の中でもその力を振るい続けたのだった。


 そして、全てを金色を消し去り、静寂だけが広がるこの場所で。上鳴御削は呟いた。


「全部、終わった……か」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ