19.この体質の意味とは
意識を絶望に塗り潰されたのは、世界中の『ファンタジー』による砲撃を間近で見ていた上鳴御削も例外ではなかった。
この島に集まる全てを力をもってしても、傷一つさえ付けられないなら、これ以上どう足掻いても無駄だろう――そんな思考に辿りつくのも無理はない。
だが、それでも彼は考える。この状況を打開できる術を。
あの天使の、ここまで発してきた言葉を思い返す。何か弱点のヒントになり得る内容はなかったか。……ふと、ある言葉が思い浮かぶ。
『有象無象が寄り集まった所で、私を超える事はできない』――この場のファンタジー全員の砲撃を全方位から浴びてもなお無傷だった天使の言葉だ。
確かに、どれだけの数のファンタジーが集まった所で、それぞれ個々の力では、天使を超えることはできないだろう。
ゲームで例えるならば、防御力が異様に高く、ダメージ自体が入らないのと同じで。力の総量では上回っていたとしても、その防御力を貫通できる攻撃が一つとしてなければ、あの天使が全てを無傷で受けきってしまったのも頷ける。
ただ。仮に、こちらの『ファンタジー』全てを純粋な足し算すれば、あの天使を超えられるとするならば。つまり、別種の力を、一つに束ねてあの天使に放てれば。
そこまで考えて、上鳴はあることに気が付いた。
「ああ、やっと分かった。――あの天使を倒す方法が」
「な、何を言っているのよ、御削。あれだけの一斉攻撃を受けて、それでもケロッとしてる相手よ? あんな化け物、どうしようもないんじゃ……」
「そんな事もない。……何なら、なんでもっと早く思い付かなかったんだ、ってくらい簡単なことだった」
その場で力尽きて倒れる神凪の、すっかり諦観したような言葉に対して、上鳴は再び立ち上がりながら、軽い調子で返答する。
「ずっと疑問だったんだよ。『神族化』はもう目指さない。じゃあ、俺のこの――『ファンタジーを惹き寄せる体質』は、何のための物だったんだろうって」
元々は『神族化』のため、この世界の不安定な一面――身近な所に潜むファンタジーを惹き寄せ、束ねる為にこの体質があると考えてきた。
だが、それは違った。すっかり役目を失ったこの体質に、一体どんな意味が込められているのだろうと、《聖心臓》の中で、島のパーツとして生かされていた時からずっと疑問だった。
だが、その答えがたった今、やっと分かったのだ。
「この体質は、今、この瞬間の為にあったんだ」
気づいてしまったのだから――ここで果たすとしよう。この面倒ごとばかり引き連れてくる体質を、上鳴御削という男が授かってしまった――その意味を。