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18.この物語の主人公は

 七人の全力を受けてもなお、傷一つない天使は無表情のまま。右手を天に掲げると、それを合図にして無数の雷が落ちる。


 ある程度は敵に狙いを定めつつ、しかし完璧にその座標を狙わない――なおかつ数で圧倒する落雷は、正確にこちらを狙う攻撃よりも位置が読めない分、ずっと厄介だ。


 初めは各々、なんとか避け続けていたが、それもずっとは保たない。


「――んぐ、ああああああああああああああああああああああッ!?」

(よもぎ)先輩っ! って、こっちもまずっ――ああああああああああああああああああッ!!」

(ふう)七枝(ななえ)先輩ッ! くそ、どうすればこの雷を止められる……ッ!」


 先に限界を迎えたのは、錬金術師の二人だった。


 運動の苦手な二人だったが、そもそも落ちる雷を避け続けるというのは、常人にこなせるような芸当ではなかった。


 それでもここまで避け続けられたのはやはり、名前も知らない錬金術の道具を駆使して、軌道を読んだり、跳ね返したりとしていたのが大きいだろう。彼女らもまた、普通ではない。


 それに、他の面々も余裕があるとは言い難かった。加えて、錬金術師二人の負傷を皮切りに、積み木を崩すかのような連鎖的に広がっていく。


 直撃まではいかずとも、体力の消耗やたった一瞬の油断で、次々と動けなくなっていく。……この場の誰もが、反撃する余裕も、それどころか一撃避けることすら難しいまでに。


「さて、そろそろ頃合いですか。天河一基(あまかわ いつき)の代わりとなり得る『天使候補』を持ち帰るとしましょう」


 流れるように放たれた雷撃が、もはや動く力も残されていない上鳴の意識を刈り取るべくその場を走る。


 だが、その雷撃は――彼の後方から放たれた別の『砲撃』によって相殺される。


 その砲撃の正体は、全てを無に置き換える黒色ベンテローグだった。その持ち主と言えば、言うまでもなくあの堕天使だが、宿り主はもう七枝ではない。


「みんな、待たせちゃったわねぇ?」


 そう。堕天使をその身に宿しているのは間倉魅能(まくら みのう)、普通の錬金術師だった。しかし、その背中には黒い翼が広げられていた。


「間倉、さん。……でも、ここは――」


 危ない、と言いかけた所で、被せるようにして間倉は言う。

 

「もちろん、増援は私だけじゃないわよお?」


 どこか安心感のある声で、間倉が告げた――その直後だった。静かに、少しずつ大きく……地響きが、遠くから近づいて来るのに気が付いた。


 そして、この神社跡の高台を取り囲むようにして現れたのは。


 魔法使い、剣士、聖占術師、精霊、弓師、錬金術師、呪術師、鬼人、魔法少女、科学者、忍者、毒使い、人形師、騎士、魔女、妖精、聖職者、獣人、槍使い、魔術師、治癒術師、魔人、暗殺者、調律師、幽霊、格闘家、能力者――これでもまだほんの一部しか網羅できていないであろう、限りあるこの瞬間では表しきれないまでの――ありとあらゆる『ファンタジー』が集結していた。


 いざ、思いつく限りの『ファンタジー』を口にしてみろと言われて、一体どれだけの数が浮かぶだろうか。……だが、そもそも数で表してしまうこと自体、ナンセンスとも言える。


 ――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――!!


 老若男女、種族も問わず。それぞれの『ファンタジー』を武器に、世界を賭けて立ち上がる。


 そう。これは、地球上の『ファンタジー』――その全てが、天界という理不尽へと立ち向かう。そんな物語であったはず。


 ――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!


 炎、水、風、木、雷、土、毒、闇、光、打撃、刺突、破裂、斬撃――これまた、こんな限りあるスペースでは網羅できない、虹色の雨がレクトーラに向けて降り注ぐ。


 七人の力では、傷一つ付けられなかった天使。だが、今回はその比ではない。それこそ、七人の連携攻撃さえほんの一部になってしまうくらいには。


 ……当然だ。この世界の『ファンタジー』()()が相手なのだ。いくら、ここまで数百もの世界を『神族化』してきた天使といえど、ここで終わりじゃなければあまりにも理不尽と言えよう。



 だが。現実に、その理不尽は起こり得る。


「――有象無象が寄り集まった所で、私を超える事はできない。どれだけの『ファンタジー』が集まろうと、所詮は個々の力がいっぺんに向かってきているだけに過ぎません」


 あろうことか、その天使には――やはり傷一つさえ付けられていなかった。


 勝利に一直線だったその勢いに、わっと盛り上がっていた場の雰囲気は一転、あまりにどうしようもない絶望へと塗り替えられる。

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