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17.終焉の宣告

「実に愚かですね。天界は既に、この世界がどうなったとしても構わないというのに。……この天使を、自らの世界で暴れさせようとは」


 考えてもみれば。この世界と天界とを繋げたのは、紛れもない天界側だ。それに属する天使という存在が、いくらこちらから出入り口を壊した所で、《天庭》からこの世界へとやって来られない理由もない。


 となれば、流石にマズイ。ツァトエルと天河一基(あまかわ いつき)の衝突でさえ、高校に、あれだけの傷跡を残していったにも関わらず……その二人よりも格上と称する天使が、ここで暴れればどうなるか。


 天使は言った。『この世界がどうなろうと構わない』――と。レクトーラの力は未知数だが、少なくとも世界を一つ、丸々滅ぼしてしまう程度、造作もないことだろう。


「ひとまず、上鳴御削(うわなき みそぐ)の回収を最優先として……そうですね、天界までの帰り道が潰された以上、また作らないとなりません。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その天使は、無機質な声で、しかし冷酷にも『世界の終わり』を告げた。


 しかし、人間とは――世界が終わるのを、黙って見ていられるほど従順な生き物でもないらしい。……それ故に、天界による『神族化』も失敗したのだろうが。


 流れるように目の前の天使から放たれたのは、触れれば気絶で済むかどうかも怪しい超火力の電撃だった。


「――ええええええええーいっ!」


 上鳴を撃ち抜く直前で白い鉄杖を振るい、虚無へと繋がる空間へと逃がしたのは言うまでもない。あらゆる法則をも超越した道具を生み出す錬金術師、比良坂楓(ひらさか ふう)


「楓、助かった! それじゃ、俺が――」


 守られてばかりではいけないと、その右拳を握って、天使であるレクトーラを睨みながらも走り、近付こうとした彼を止める姿があった。


「バカね、御削。狙いはアンタだって言うんだから、今回くらいは後ろで大人しくしてなさいっての」


 竜の手足に、真紅色の翼を携えた少女だった。言うと、そんな彼を軽々と追い抜いて、風よりも速く――レクトーラとの距離を詰める。


 だが、顔色一つも変えずに天使は。


「口振りの割には、遅すぎますね」


 右手に電撃の槍を握り、向かってくる神凪の心臓部を目掛けて突き刺そうとする。


「遅いですって? ワタクシの『過去』に比べれば、アナタも大差ありませんわよッ!」


 その一撃を受け止めたのは、過去を改変する探偵が放った、マイナス秒から繰り出される斬撃だった。


「――はあああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」


 邪魔する物はもう何もない。神凪(かなぎ)はただ真っ直ぐに、その燃えたぎる右拳を全力で放つだけ。


 彼女の手に、確かな感触があった。天使、レクトーラを文字通りに殴り飛ばした感触が。


 だが、それだけだった。確かに相手は吹き飛んだものの、相手は苦悶の表情どころか眉一つさえ動かさずに、ただ走る衝撃に、身を任せただけであった。


 思い返してみればそれも当然だ。天使ですらない、あの金色――《神の子》でさえ、今と同じような結果だったのだ。それらは当然として、天河やツァトエルといった存在さえも遥かに凌駕する相手を、彼女の右拳くらいでどうにかなるはずもない。


 だが、吹き飛ばされた先では待ち構えていた。


「――ウィザー・バインド」


 ピンクの魔法少女が、そのステッキを片手に唱えると――地面から植物の根が何十本と勢いよく飛び出した。それらは飛ばされた天使へと絡みつき、その動きを封じる。


 当然、レクトーラにとっては簡単に振り解ける魔法だろう。だが、一瞬でも隙を生みだせれば、それは魔法少女の思惑通りだった。


(よもぎ)、お願い!」

「了解」


 絡みつく根を振り解く天使へと、パスを渡された錬金術師、七枝(ななえ)が投げたのは――小型の爆弾だった。それも、出し惜しみはせずに、ローブの内ポケットに備えていた全てをばら撒いた。


 ――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!


 激しい轟音と共に爆ぜ、レクトーラを飲み込んだ。


 超至近距離での大爆発。普通に考えて、無事で済むはずもないが……天使を相手にしている以上、常識なんて物差しで予想を立てる自体がお門違いだろう。


 故に、今はおっとり系の巫女、箱園紗々羅(はこぞの ささら)はさらなる攻撃を叩き込む。


「天罰・キョウチクトウ――っ!」


 大量の白い御札を撃ち放った本人でさえ、天使に天罰なんて冗談を――とも思ったが、元々は天使である天津河神(あまつかわのかみ)もとい天河一基を信仰し、この島の管理者をやっていた彼女に受け継がれた戦い方なのだから仕方がない。


 天使に、同じ天界の力が通用するかどうかは分からない。通用しない可能性の方が高い。それでもやらないよりはマシだろう。


 最後に、どこからともなく、トドメの一撃と言わんばかりの衝撃波が、爆風によって未だ舞い散る砂煙もろとも吹き飛ばす。


 晴れた先には――七人全員、目を疑ったが――心のどこかでは薄々、予想もしていたであろう光景があった。


「全員で力を合わせて尚、この程度ですか。イレギュラーなこの世界の、イレギュラーの中心が集まった攻撃です。久しく感じていなかった気持ちの高ぶりもありましたが……ええ、興醒めですね」


 心底つまらなさそうに呟いた天使、レクトーラ。その身には、傷一つさえ付いていなかったのだった。

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