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15.数百もの世界を救いし天使

「申し遅れましたが、私はレクトーラ・フィオール・ネーベライン。まあ、名前の全てを名乗ると長くなるので、ここまでにしておきますが……お察しの通り、天界から来た『天使』です」


 見た目から、そうだろうとは思っていたが……改めて天使と聞くと、やはりもう一度身構えてしまう。


「私がここに来た理由もまた、この《天庭》ごと、貴方がたの世界との接続を消し飛ばすのが目的です」

「随分と自分勝手よね。元はと言えば、天界が『神族化』の為に、アタシたちの世界と勝手に繋げて、天河一基(あまかわ いつき)が送り込まれてきたって話じゃなかったかしら?」

「はい。初めは天界側もそのつもりでした。しかし、ツァトエルがあの地にて墜ちた事、そして何よりもアルレスタル――ああ、そちらの世界では天河一基と名乗っていましたか――が殺されたというイレギュラーを受け、当初の予定を修正する事となった訳です」


 自分勝手だとは思う。ここまで他所の世界を引っ掻き回しておいて、都合が悪くなったから繋がりを切ろうだなんて、虫がいい話だと思う。


 だが、過ぎたことを今更掘り返す必要もないだろう。目的が同じなら、天使という明らかな格上相手にこれ以上争うことなくことを済ませられるなら、それでいいとさえ思う。


 だが、それなら――上鳴(うわなき)には一つ疑問が残る。

 

「なら、どうして。俺が《天地導管(ネヴェンゲート)》を壊そうとした時、わざわざお前は俺の攻撃を止めたんだ?」


 目指す結果が同じなら、《天地導管》を誰が壊そうと構わないはず。それなのに、レクトーラと名乗る天使は、上鳴の《堕天の鎌(ベンテローダー)》による一撃を止めた。


 そこから推察するに、レクトーラは他に、何か目的があるのだろう。


 彼の問いに対して、天使と人間という壁を前にして、最早隠す必要もないだろうと。相変わらず無機質で平坦な口調で告げる。


「天界は、天河一基という将来的に数多もの世界を『神族化』することが可能であったはずの、貴重な存在を失いました。その穴を埋められる、新たな()使()()()を必要としています。例えば――」


 レクトーラが視線を向けたのは、相対する一人の男。


「貴方がたの世界の、不安定要素を束ねる力を持つ、上鳴御削という存在でも――天河一基の代替品としては十分でしょう」


 同時、相手は指の一本さえ動かすことなく、一本の雷撃を発射する。


「うおおおおおおおおおおおッ!!」


 対して、上鳴は右手の鎌をひと振り。全てを『無』に置き換える一撃は、天使の放つ雷撃をも掻き消した。


麗音(れおん)」「ええ」


 二人の掛け合いの後、一斉に目の前の天使に向けて駆け出した。片方は竜の手足に真紅色の翼を携えて、もう片方は全身に狂気を纏って。


 まずは上鳴が、再び《堕天の鎌》を振るう。もちろん防御ではなく、攻撃の為に。


 対するレクトーラは、網状に雷撃を張り巡らせて障壁を作り出す。『無』へと還す一撃を受け止めるが、雷撃の網に大きな穴が開いた。


「――はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」


 横から、神凪が翼を大きくはためかせ、勢いのままにその穴へと飛び込んでいく。


 彼女の右拳は、怒りを表すかのようにめらめらと炎上していた。


 神凪の右拳を避けるべく、レクトーラは初めて、自分から動いたのだった。


「予想していた展開ではありますが、やはり素直に来てはくれないようですね」

「当たり前だ。俺はもう、二度と道は違えない――そう誓ったんだ。天界なんかの思惑に乗ってたまるかよ」

「それは残念です。ですが、貴方の考えなど、こちらには一切関係ありません。強引に天界へと持ち帰る。ただそれだけのことですし」

「それなら、アタシはアンタを殺す。殺してでも御削を連れて帰るわ。……もう、御削を失うなんてまっぴらだもの」

「それは結構ですが、まさか『天使』に勝てるとお思いで? ツァトエルや天河一基のような、まだ一度も『神族化』を果たしていない未熟な天使と違って、私は数百の――私の()()()()()()世界を『神族化』してきた手練れの天使なのですよ?」

「だから何? いくらアンタが立派な天使様だったとして――アンタがアタシにとっての『敵』って事実は――変わらないッ!」


 次は右足を炎上させて、神凪は渾身の蹴りを放つ。


 しかし、ひらりとその蹴りを避けたレクトーラは、一瞬の隙も感じさせない流れるような動作で、神凪へと雷撃を叩き込む。


「んぐッああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」

「麗音ッ! ――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 上鳴は、狂気を纏い、格段に向上した身体能力によって一気にレクトーラとの距離を詰める。


 咄嗟にレクトーラは、身を引いて《堕天の鎌》の射程外に抜けるが――上鳴の狙いは、その天使ではない。


「悪いけど、俺たちの目的は()()()()()()


 言った時には、既に黒い鎌は彼の手を離れていた。全速力でぶん投げられたその鎌は、豪奢な姿見――《天地導管》へと向かっていた。


「――なッ!」


 天使は咄嗟に雷撃を放ち、鎌を止めようと試みるが……僅かに掠めただけで終わる。


 レクトーラの目的には、二つの世界の断絶と他に、上鳴御削という存在を天界に持ち帰るというものがある。


 だが、上鳴と神凪がここに来た目的は、その前者だけ。その時点で、いくら実力差があろうとこちらの有利は揺るぎない物だったと言える。


 ――ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!


 そんな耳に障る音を振りまきながら、《堕天の鎌》は容赦なく、天界とここを繋ぐ門を――無へと還した。


「逃げるぞ、麗音ッ!」

「ふぇ? ああ、うん、そうね……!」


 ここは、レクトーラを倒すべき流れなのだろうが――上鳴の行動には、仲間である神凪さえ、ぽかーんといった効果音が似合いそうな表情を浮かべてしまう。


 神凪の手を取り、上鳴はここまで来た階段へ飛び込むようにして逃げ出した。


 天使が、再び雷撃を階段に向けて放つ。着弾したそれは、辺り一帯の全てを感電させるべく広がっていくが……二人の姿は既に、この《天庭》からは消えていた。

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