13.天庭への鍵
先の戦いにより、すっかり荒れ果ててしまった神社の庭先にて。上鳴と神凪、許斐といった《天庭》への入口を探すチームと、必要な道具《堕天の鎌》を生み出すべく奔走した錬金術師、七枝と比良坂が合流した。
……ちなみに、堕天使ツァトエルは《天庭》を出入り禁止になっているため、間倉の身体に宿ってお留守番である。とはいえ、堕天使の強大な力を余すのはもったいないので、他の戦いに身を投じる人々の援護といった形で、戦闘には参加しているのだが。
さらに、セリッサや箱園紗々羅といった新たなメンバーも合流し、万全の体制でついにこの瞬間を迎える。
「天鍵・クリンザクラっ!」
巫女服姿の箱園紗々羅が唱えると、巨大な金色の鍵が虚空より現れる。その鍵を掛けた本人しか見えていないであろう鍵穴に、金色の鍵を差し込み回すと――ガチャリッ! と分かりやすい解錠音が鳴り響いた。
直後、一段目から順番に、次々と枠が金色であとは半透明の螺旋階段が上へ、上へと伸びていく。
やがて、上空にあったとびきり分厚く真っ白な雲へと階段が突き刺さった。
「はいっ、あとはこの階段を登れば《天庭》に入れます」
「……まさか、あの雲の中が入口になってるなんてね。流石のウチも盲点だったなあ」
その光景を見た許斐が、思わずそう声を漏らしてしまう。それもそのはず、彼女は一度この辺りを探したうえで、ないと結論付けた。……のだが、視線の先には風が吹いているはずの上空であっても微動だにしない雲と、繋がる螺旋階段。
当然、一筋縄では見つからないと思いつつも、まさかこんなにも近くに入口が隠されていたとは思うまい。
「正確には、この階段自体も入口の一部ではあるんですけどね。階段を登るという過程を経て、段階的に《天庭》のある異空間に足を踏み入れていくんです」
「つまり、アタシの翼だったりでズルはできない、ってことね。まあ、それでもあとはこの階段を登るだけ――とは行かないか」
言いかけた神凪だったが、その周りの光景を目にすると、改めて言い直した。
こちらの動きに釣られるように――周囲で特にこれといった目的もなく、破壊活動を繰り返していた《神の子》らが一斉に、こちらへ注目を集めたからだ。
「それだけじゃありませんわ……遠くからも続々とやってきますっ!」
セリッサの言う通り、どうやらこの階段から《天庭》へ向かおうとするこちらの思惑を断つべく、次々と遠くからも群をなして集まってくるのが見えた。その数からして、恐らく島中の《神の子》がここまでやってくるつもりなのだろう。
「みなさん、急いで登ってくださいっ! この階段も頑丈ではないので、あいつらの攻撃を受けたら簡単に崩されちゃいます! ここは私が食い止めますから、安心してくださいっ」
島の元管理者、今は共に戦う仲間となった、巫女の箱園紗々羅は言うと、向かってくる金色の群れへと立ち塞がるようにして前に出る。
「それならワタクシもここに残ります。何せ、今のワタクシには『過去の改変』という力がありますからねっ!」
過去を視てさらには干渉まで可能とする名探偵、セリッサ・エストコルトは他人には決して視認できない、一秒前の過去に放った斬撃で、近くの金色を三体同時に両断する。
「それならウチも残ろうかな。ウチの飛行魔法が、あの《神の子》とやらにも引けを取らないっていうのは、さっきまで飛び回ってた時に証明済みだしね」
まさに島中を飛び回り、《天庭》を探していた魔法少女、許斐櫻。空を飛んでいる中で何度か襲われたものの、持ち前の小回りの利きやすさはあの金色にも引けを取らない。
「なら、私も残るとしようかな。錬金術師は運動に不向きだし」
「ですね。わたしも、あの階段を登りきれるかどうか……」
錬金術師である七枝蓬と比良坂楓も、どちらかといえばその場で留まりながら多彩な道具で応戦することが多い。……端的に言ってしまえば、七枝の言う通り、運動には向いていないのが錬金術師という存在なのだ。
「なら、俺がその《天地導管》を壊しに行くよ。その《堕天の鎌》があれば、天界とこの世界の繋がりを断ち切れる……だったか」
「ああ。使い方も至って簡単、普通の鎌とそう変わらないよ」
「それなら良かった、俺でも何とかなりそうだ」
七枝がざっくりとした説明をしながら、隣で比良坂がどこからか取り出した黒い鎌を上鳴御削が受け取った。
「それならアタシも行く。御削を一人にしたら、またどこか遠くにいっちゃうかもしれないし、ね?」
「もうどこにも行かない……けど、麗音が居てくれるなら、俺も心強いよ」
どんなに強い伝説の武器やチート能力より、何よりも――彼にとっては神凪麗音という存在が、一番の心の支えとなるのは今さら言うまでもない。
上鳴と神凪、二人が《天庭》へと続く階段の一段目を踏み越えて、一段、また一段と上がっていく。
当然、金色の群れはそれを許すまいと、その拳であらゆる方角から階段を壊しにかかるが――。
「させませんわ――よッ!」
「意外と遅いね、そんなんじゃ一生掛かってもウチらを止められないよっ!」
セリッサの過去改変による斬撃が、向かってくる金色をさらに切断し、許斐の魔法陣が拳による一撃を軽々と受け止める。
「ありがとう、助かった!」
「急ぐわよ、御削! 登ってしまえばこっちのモノなんだから!」
言いながら、二人は更にペースを上げて、《天庭》へ一段、また一段と足を踏み入れていく。