11.再来の名探偵
「まあ、そう簡単に見つかるとは思ってないけど……こう、ことごとくアテが外れると堪えるなあ」
魔法少女の飛行能力は、かなり小回りが利く。速度も、高さも割と自由であることを活かして、島のあちこちを探し回ってはみた。
街の中心部から、本命でもあった地下に《聖心臓》のあった神社近辺まで、ありとあらゆる場所を巡ったが――それらしき場所は見つからない。
……と、そこへ。
「はあ、はあ……。やっと見つけましたの……。皆さんはどこへ?」
「……せ、セリッサさん!? どうして戻ってきたの!?」
許斐が声を聞いて、振り向いた先に立っていたのは――金髪金眼、ツインテールを揺らす少女。過去を視る力を持つ探偵、セリッサ・エストコルトだった。
だが、彼女はつい昨日、故郷に向けてこの島を出たはずだった。船に乗った彼女を、許斐も含めた全員で見送ったのだから間違いない。
「どうしてもこうしてもありませんわよ! 外では大騒ぎになっているのですから。新たな島が発見されて、そこで謎の金色の生命体が大暴れしているって、全世界で大ニュースに……」
「ああー、そういや結界もなくなっちゃったんだっけか……」
ほんの二日前までは、隠祇島の文字通り心臓部を担っていた《聖心臓》による結界で、この島の存在は隠されてきた。
が、その結界も《聖心臓》を壊された今は、もう存在しない。航空機や人工衛星といった空からの目がある現代で、結界なしに存在を隠し通すなど不可能だ。
よって、騒ぎになるであろうことは大方予想がついていた。……そうなっているとして、島の内部だけの情報網しか存在しないこの場所で、外がどうなっているかなど、知る由もないのだが。
「……でも、それならどうして? 危険だって分かってるのに、この島まで来ちゃったの!?」
「それはもちろん、皆さんが残っていると知って、ワタクシだけ帰るなんてできませんから。危険だと止められましたが、ワタクシには知ったことではありません。勝手に船をお借りして、ここまでやって来た……ってワケです」
「その気持ちはありがたいし、確かにセリッサさんの力があれば《天庭》探しも捗るんだけど。――でも、ここはあまりにも危険すぎる」
今も、街の中心部から離れた場所にある神社の近くとはいえ、複数体の金色、《神の子》が飛び回っている。
過去を視るという、破格な能力を持つセリッサでも、直接戦闘の力は持たない彼女では一度襲われればひとたまりもない。……許斐はそう判断するしかないだろう。
――何せ、この状況下でもセリッサから溢れる、この妙な自信の正体を知らないのだから。
「おーっほっほっほ! 舐めてもらっては困りますわ。ワタクシは努力と研鑽を惜しまない探偵と名高いのですから、あの一件で得た知識も当然、活用して糧にしてますのよ?」
セリッサがあの一件で得た知識といえば、『魔力』に対する理解だろう。そのおかげで、セリッサはコンマ秒前の過去を見て、相手がどのような術、力を行使するかまで視えるようになったのだから。
だが、もしその先があるとしたら――? ここまで思考が巡った所で、許斐は見せられてしまった。
「ご覧ください、ワタクシの能力――その真骨頂をッ!」
同時、付近を飛び回っていた三体の金色が、真っ二つに切り裂かれていた。
許斐はその瞬間を見てはいない。気づけばそうなっていた――と言うほかない。
「……せ、セリッサさん。まさか、これって……」
「ええ、ええ! お察しの通り、これは――『過去の改変』ですわ」
許斐はまさかと思った。直接この目で見たうえで、それでも信じられなかった。
だって、セリッサの言葉をそのまま捉えるとすれば、それは――人間ひとりが持つべき力を遥かに超えている。天使や堕天使といった存在をも凌駕する、それほどまでの力だ。
「まあ、流石に制限は多いですけれどね。バタフライ効果――改変前と改変後で結果の差異が大きければ大きいほど、一度に使用する魔力も莫大になっていきます。今のワタクシでは、一秒前に、こうして斬撃を三つ追加する程度の改変が限界ですわね」
「いやいやいや、それでも十分チートすぎるって、それ……」
限界があるにせよ。文字通りの『一瞬』をゼロとするならば、セリッサはさらに前、マイナスから攻撃を叩き込める。
それだけで、彼女がどれだけ理不尽な力を手にしたかは想像に容易いだろう。
……と、許斐が驚きを通り越してセリッサに引き気味の視線を送っていると、不意にスマートフォンの呼び出し音が鳴り響く。
相手は別行動をしている、上鳴御削からだった。
「はーい、もしもし?」
『許斐先輩。こっちで《天庭》が見つかった……というか、入り口までの階段を繋げられる人との協力を取り付けられたんです。今、先輩はどこに?』
「神社のあたりだよ。ちなみに、セリッサさんも一緒」
『セリッサさん? ここまで戻ってきたってことか……? とにかく、それなら丁度いいです。《天庭》の入口があるのはその神社の上らしいので、俺は麗音と合流してそっちへ向かいます』
「了解だよっ。楓と蓬と、堕天使にはもう伝えてる? まだならウチが電話しておくけど……」
『まだです。麗音とひとまず合流しないといけないので、許斐先輩、あとのみんなに連絡をお願いしても?』
「任されたよ。まあ、蓬たちからまだ連絡が来てないってことは、向こうもまだ終わってないんだろうし、そう急ぐ必要もないとは思うけどねー。くれぐれも気をつけてね、それじゃ!」
そう言って、許斐は電話を切る。