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8.もう一つの人格ならば

「ああ、いえ。私は何も、上鳴(うわなき)様を止めようとしたり、危害を加えるために、ここまで来た訳ではございませんので」


 (いぶか)しむような視線を送る上鳴御削(うわなき みそぐ)に向けて、巫女服姿の女性、箱園紗々羅(はこぞの ささら)は平坦で冷たい口調でそう言うが……信用など、できるはずもない。


 言葉をそのまま受け止めず、警戒を緩めることなく上鳴は、問いかける。


「……今更、何の用なんだ?」

「お話は聞かせて頂きました。どうやら《天庭(てんてい)》をお探しのようで」

「だとしたら? まさかと思うけど、《天庭》の場所を教えてくれる――なんて言わないよな?」

「そうですね。確かに私は《天庭》の場所は知っています。そして、その入口を開く鍵も持っています」


 しかし、箱園は続けて。


「ただ、今の私は天津河神(あまつかわのかみ)様が、『隠祇(おぎ)島の管理者』として、箱園紗々羅という存在にインストールした――いわば『第二の人格』です。故に、私はその情報を教える事はできません」


 なら、どうしてまた眼の前に現れるのか――上鳴が声に出して訊く前に、まるで彼の心を読んだかのように彼女はこう答えた。


「ですが、()()()()()()()()であれば話は別でしょう。例えば、力尽くで私を倒し、もう一つの人格を引きずり出す――など。……私が伝えられるのはここまでです」


 一瞬、何を言っているのか理解に苦しんだ。が、何となく彼女の言いたいことが伝わってきた。


 つまり、箱園も内心、《神の子》の暴走を止めたいと思っている。そして、その手段も持ち合わせている。が、彼女の二つ目の人格――今の、まるで機械のような性格の方だ――が、それを許さない。


 だから、上鳴にもう一つの人格――おっとりとして、どこか抜けている方の彼女だ――を、引きずり出して欲しい。


 彼女ならばきっと、隠祇島の管理者としてではなく、箱園紗々羅という一個人として、この状況を打破する為の力になれると考えたのだろう。


「でも、どうして俺が一人の時にわざわざ来たんだ?」

「私の、本来の人格を知っているのは上鳴様だけですから。一番、この話をして納得して頂けそうな相手を()()()だけに過ぎません」

「そうか。分かったよ」


 選んだ、という表現に少々引っかかりを覚える。まるで、三人が別行動を取ることを分かっていたような。


 だが、向こうの言い分はきっと正しいのだろう。仮に嘘だとしても、わざわざ上鳴の前に現れて、ここまで話を長引かせる理由がない。彼が狙いであるならば、わざわざ顔を出さずに不意打ちで終わらせてしまえばいいのだから。


 ならば、こちらも本気で――彼女を倒さなければならない。この状況を打破する為にも。そして、彼女の思いを無駄にしない為にも。


「こっちは全力でいかせてもらうぞ、箱園ッ!」

「私も、島の管理者である以上は手加減できません。が、()()()()()()()()、上鳴様」


 管理者としての範疇を超えない程度の、ギリギリの本心が見え隠れするその言葉を皮切りに。


 全身に狂気を纏った姿へと変貌した上鳴と、巫女服姿の箱園がそれぞれ向かい合う。

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