7.木陰から現れしは
天界とこの世界、唯一の繋がりである《天庭》への入口を探すべく――神凪麗音と上鳴御削、許斐櫻の三人は、また別の目的のために動いている錬金術師たちとは別行動をしていた。
街の郊外辺り、道の脇に広がる木々の影の下で、三人はひとまず小休憩を取っていた。
「……でも、この島にあるとしか分かってない中で、こんな闇雲に探していても埒が明かないんじゃないかしら」
神凪の言う通り、今はこうして三人で、島のあちこちを歩き回ってしらみ潰しに探してはいるが……やはり、効率は悪い。
他に良い方法がないので、こうして足で稼ぐという方法を取っているのだが、ここで彼女――過去の光景が見られるという探偵、セリッサがいればこうも苦労しなかったのだろうが。
「同感だねー。せめて、効率が上がればいいんだけどね。例えば、ウチら三人がさらに分かれて単独行動で探す、とかさ」
「流石にこの状況じゃ危険だと思うけどな。下手にちょっかいさえ掛けなければ《神の子》とやらも、そう襲ってこないとはいえ。俺たちが『破壊する対象』として狙われる可能性だってゼロじゃないんだし」
許斐の考えも間違ってはいないが、上鳴はそれ以上に、単独行動によるリスクが大きいと考えてそう言葉を返す。
喫茶店から出てきただけの上鳴と神凪が、実際に攻撃対象にされたこともある。それ以来、こちらから何もしていないおかげか、まだ一度も襲われていないとはいえ……この状況下で単独行動はどう考えても危険だ。
神凪もその身で経験しているので、当然同じ意見になるだろう――と思ったが、上鳴の予想は見事に外れる。
「いや、アタシは許斐さんの意見に賛成かしらね。このまま三人でずっと固まって動いていたら、日が暮れても手がかりさえ見つからない気がするし」
「そうだけど、誰かがケガでもしたら元も子もないんじゃないか?」
「何言ってるのよ、御削。アタシたち三人が、あの程度の奴らに今更遅れを取るとは思えないわよ?」
「うんうん。まあ、もし上鳴くんが不安だっていうなら、ウチか神凪さんが一緒に行動してもいいんだけど……」
「いや、そういうことじゃないんだけどな……まあ、確かに埒が明かないってのも事実だけどさ――」
「――それじゃ、決まりで!」
この何が起こるかも分からない状況下で、誰かが一人で行動すること、それ自体が問題なのだ。
止めるべきだと思い、続けようとした上鳴の言葉は、上から被せるように放たれた許斐の声によって掻き消されてしまった。
「一応、定期的に連絡は入れることと、少しでも怪しい物が見つかったら、すぐに連絡を入れること!」
「ええ。御削、一応聞いておくけど、大丈夫……よね?」
「え? ああ、まあ――って、二人とも!?」
それじゃ、と別れの挨拶を交わすと、神凪と許斐がそれぞれ街の外と中心方面に向かい、さっさと走って行ってしまった。
「なんというか、強引な……」
まあ、魔法少女にドラゴン少女、あの二人ならきっと大丈夫と信じて。こうなってしまった以上は仕方がないかと、上鳴も一人で《天庭》の探索を始めようと思った――その時だった。
ふと、木の影から一人、このタイミングを見計らったかのように現れ、こちらに歩いてくる姿があった。
「上鳴様。ご無沙汰しております」
声のした方へ、上鳴は視線を向ける。そこに立っていたのは、白い着物と下は緋色の袴姿、黒い髪を長く伸ばした女性だった。
「箱園、紗々羅……ッ!?」
彼はその女性を知っている。かつて、彼を《聖心臓》へと取り込むべく、敵として立ちはだかった巫女だった。