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12.僅かな可能性さえ潰えて

「……帰って、ない……か」


 昨日も訪れた、神凪(かなぎ)が一人で暮らしているという、住宅街の一角に建つごく一般的なアパートの前で、上鳴御削(うわなき みそぐ)はそう声を漏らしてしまう。


 彼女が住んでいるはずの部屋の窓は、もうすっかり夜だというのに、部屋の明かりは灯っていない。特にどこへ寄ってから帰るとも言っていなかったし、体育館裏で話をした後は、そのまま真っすぐ帰っていったはず。


 つまり、その暗い部屋が示すのは――これだけの時間が経っているにも関わらず、神凪はまだ家に帰っていない。彼女の身に、何かが起こった可能性だった。


 一応、明かりを点けていないだけの可能性もあるので神凪の部屋のチャイムを鳴らしてはみたが、結果はやはり、物音一つすら帰ってこない。


 とりあえず、道端に落ちていたのを拾っておいた神凪のブレザーを、ドアノブにそっと掛けておく。


『戦う前に脱いだ制服を、忘れて帰っちゃったってだけかもしれない』――口ではああ言っていたが、当然、そう都合の良い展開ばかりが起こると信じ切っていた訳でもなかった。


 だが、それにしても。実際にその僅かでも残っていた可能性が実際に潰えてみると、やはり悔しいものだった。


 これから神凪を探すにしても、完全に八方塞がりのこの状況で一体どこを探せというのか、全くもって見当もつかない。


「くそッ、こんな事になるって分かってたら。例え俺が素人だろうと何だろうと、無理やりにでも首を突っ込んでたに決まってるだろ……」


『シロウトが簡単に首を突っ込んでいい問題じゃない』――神凪のその言葉を真に受けてしまった、体育館裏での自分を恨めしく思う。


 だが、自分を責めたところでこの状況は変わらない。神凪の安否は定かではないが、確実に()()に巻き込まれている。それを知ってしまった以上は、もう戻るという選択肢はとうに消えていた。


 彼は、ふとポケットからスマホを取り出して、ここまでの道のりの途中で掛けた分も含めれば今日はもう何度かけたかも覚えていない、その電話番号に指を触れる。


 だが、返ってくるのはいつも同じ音声だった。


「……やっぱり、繋がらないよな」


 ここまで来る途中にも、走りながら何度も何度も電話を掛けてはいたのだが……やはり最初にかけた電話以来、呼び出し音すら鳴らずにアナウンスが流れ始めてしまう。


 一度目は確かに、呼び出し音が鳴り続いていた。それと合わせて考えてみるとやはり、二度目のしつこい電話に怒った神凪か、もしくは電話の音が鳴るのを嫌った第三者が、電源を切ってしまった――と考えるのが妥当だろう。


 前者ならいい。上鳴が勝手に心配して、勝手に走り回っただけで終わるのだから。


 だが、後者なら。それは第三者が、神凪の意思を無視してプライバシーの塊とも言えるスマートフォンへと安易に触れられる状況、とも取れるのだ。


 それは同時に、いつ取り返しのつかないことになってもおかしくない状況下である、という事を意味している。


 そうなる前に、一刻も早く神凪を探さないと。そう考え、目的地すら決まっていないながらも走り出そうとした彼の元に――どこか聞き覚えのある男の声が飛んでくる。


「よう、御削。こんな所でなにやってんだー? ははーん、もしかして。()()()()()()()()()()()()()()()、とか?」

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