3.逃げた先、身を潜めながら
激しい瘴気を放つ魔女から離れ、少し走った先で。やはりここにも、金色の存在が空に溢れかえっていた。
今は雑木林の木陰に隠れて、なんとかやり過ごしているが……。
「というか、さっきよりも数、増えてないか?」
「そりゃあね。アタシの渾身の一撃を食らってもケロッとしているような化け物だもの。さっきの魔女なら対抗できるかどうかも分からないけど、並大抵の力じゃどうにもならないわよ。……無論、アタシたちも含めて、ね」
神凪が悔しさに歯噛みしながら言う。事実、あの化け物と一対一でやりあったとして、逃げ続けるだけならともかく、倒すのは難しいというかほぼ不可能に近いだろう。
幸い、アレの標的は人間だけではなく、周りの建物や街路樹なども含まれている。そのため、こちらが何もせずに、道の脇にでも隠れてさえいれば、標的にされることも少ないのが唯一の救いか。……もちろん、破壊の渦に巻き込まれれば一巻の終わりではあるのだが。
と、そこで上鳴のスマートフォンが振動し、陽気な着信音が鳴り響く。
「……いや、アンタこんな時くらい音切っときなさいよ、アレに狙われたらどうするのよ?」
「ごめん、でもそんな暇が無かったのは麗音も分かってるだろ」
言いながら、上鳴は電話の相手を見ると――大方予想通りではあったが――比良坂からだった。
『もしもし、御削くん? ……よかった、繋がったってことは、そっちは大丈夫かな』
「大丈夫ではないけど、何とか無事ではあるって所かな」
『そっか。……ツァトエルさんから話があるみたいで、一度集合したいんだけど……今、神凪さんも一緒だよね。どこにいるの?』
「街の外れの方だけど、そっちに向かった方がいいかな。下手に動いたら危ないだろうし」
『ううん、わたしたちのいる方が危ないんじゃないかな。街の中心あたりにいるんだけど、あちこちで戦いになっていて、落ち着いて話せる状況じゃないから。わたしたちがそっちに向かうね』
「ああ、分かった。場所は……後で位置情報を送るから、それを頼りに来てくれ。くれぐれも、気をつけて」
とはいえ、錬金術師が二人に魔法少女、さらには堕天使まで揃っている向こうの方が、戦力的には安心なのだろうが……。だからといって、気を抜いていい訳もない。
『うんっ、それじゃ、また後で!』
比良坂がそう言うと、電話がプツリと切れる。
「……で、なんだって?」
「楓たち三人は無事みたいだ。で、ここで待ち合わせることになった。堕天使、ツァトエルが、何やら話したいことがあるらしいけど」
「今はアタシたちの味方ってポジションとはいえ、イヤな予感しかしないわね」
「……同感だ」
二人は同じく苦笑いを浮かべながら、そう言い合った。