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2.金色を放つ破壊者

御削(みそぐ)っ! アレって……」

「まさか、島中があんなことになってるんじゃない――よな?」


 純喫茶を後にして。上鳴(うわなき)神凪(かなぎ)、二人が見たのは――空を飛び回り、目に付いた建物や木々といったありとあらゆる物を次々と破壊していく、全身が金色の光で構成された存在。見た目的には『天使』といった表現がお似合いだろう。もちろんフィクションなんかでよく描かれる、可愛らしいものではなく。


 形としての翼が生えてはいるが、その翼自体は微動だにしていない。その金色自体がドローンのような不自然な動きで、あちこちを自由に飛び回っているため、おそらく、あの翼は飾りだろう。


「街の外れでさえこんなだもの、きっと中心の方はもっと……。あの三人なら、きっと大丈夫だろうけど。でも、間倉(まくら)さんは確か家に一人よね? あまり戦えるような人には見えないし……。心配だわ」


 とはいえ、間倉魅能(まくら みのう)も錬金術師だ。それも、比良坂楓(ひらさか ふう)の先輩である七枝蓬(ななえ よもぎ)、その先生にもあたる錬金術師となれば、直接その実力を見た事は少なくとも只者ではないのは想像に容易い。


 彼女は彼女で、この状況も上手く凌いでいる――と信じたい。心配といえば、彼女のマイペースな面が気がかりではあるのだが。


 それに、どうやら人の心配をしていられる余裕もないらしい。あの金色の、顔にあたる部分に目はないのだが、それでもハッキリと視線がこちらに向けられたのが二人にも感じられた。


「……アタシはその力、使うのはあまり賛成じゃないんだけどね」

「俺も、いざという時にしか使うつもりは無かったけど。でも、今の状況はどう考えてもその時だし」


 そう言う上鳴の身体は、赤黒く変色しており、血管が浮き彫りになってドクンと今も強く脈打つ。……神凪の《竜の血脈(ドラゴン・ブラッド)》に触れた際の狂気に対して、身体が順応したのか――同様の力を神凪の血がなくとも、自分自身で制御できるようになったのだ。


 神凪の血に頼らずに、初めて自分の力で発動できたのは、この島で天河と共に彼へと立ち塞がった巫女、箱園紗々羅(はこぞの ささら)との戦いだったか。


 だが、神凪はその力によって、一度は比喩表現なしに死にかけてしまった御削の姿を見ている。彼女からすれば、そんな危険な力に頼っていて良い気はしないのも当然だ。


「ま、今更文句を言ったところで、よね。来るわよ、御削っ!」

「ああッ!」


 向かってきた金色の拳を、上鳴が両手で受け止める。が、いくら狂気を纏った状態の彼とはいえ、ズガガガガガガッ! とコンクリートの地面を削られながら、引きずるように後ろへと押されてやっと、圧倒的な破壊力の拳を受け止められる。


「――麗音、頼むッ!」

「任せなさいっ! はああああああああああああああああああああああああああッ!!」


 受け止め、現れたほんの僅かな隙を神凪は当然見逃さない。炎を纏った強烈な蹴りが、金色の存在を吹き飛ばす――が、それだけだった。


 神凪の放った蹴りは確かに申し分ない威力だった。直で受けた金色の存在は、数十メートルは離れているであろう、工事現場のフェンスへと思いっきり叩きつけられる。


 それでも、あの金色に対しては少しもダメージを与えられているという感触がなかった。実際、相手も一切怯む様子すら見せず、再びこちらへと向かってくる。


 二人が明確な敵意を見せたせいか、その速度はさっきとは段違いに速くなっていて。金色の拳を受け止めようと身構える時間さえ残されていなかった。


 完全に一本取られた――そう諦める猶予すら許さない、圧倒的な破壊力が二人を葬ろうとした――その時だった。


崩れ(アル)綻べ(トゥ)腐り落ちよ(ディケット)


 冷淡で無機質な声の詠唱が響くと同時、二人に向かう金色の存在の足元から紫色で毒々しい瘴気が立ち上る。


 あっという間に金色の身体をドロドロに溶かすと、液状となったそれがべちゃりと地面で広がり落ちる。


「……もうこの力は使わないって決めていたのに。ああ、安寧の土地でお店でも開いて、平穏に暮らすという私のささやかな望みさえも邪魔するというのなら。私はもう一度全てを呪い、全てを蹂躙する……」


 その声の主は、さっきまで二人が優雅なひとときを過ごしていた喫茶店の店員さんだった。


 流石はファンタジーの集まる島。思わぬところに、意外な実力者が潜んでいるらしい。


「魔女……かしら? とにかく助かったわ、ありがとうっ!」

「ああ、本当に危ない所だった……。ありがとう、店員さん」

「いえ、私はただ呪いを振りまく事しかできない存在ですから。この瘴気は敵味方問わず、全てを溶かし尽くします。貴方がたも巻き込まれる前に、早く私の周りから去りなさい」


 言うと、喫茶店の店員であり、神凪の見立てでは『魔女』であるらしい、銀髪の女性が放つ禍々しさは一段と強くなる。身体から溢れ出る紫色の瘴気が、より一層濃く、毒々しくなっていく。


 このまま近くにいれば、彼女の言う通り、二人もさっきの金色同様、例外なく溶かされてしまうだろう。ここにとどまったところで、かえって彼女の邪魔をしてしまうに過ぎない。


「……すまない、ここは任せたッ!」


 上鳴はそう声をかけてから、魔女のお言葉に甘えて、その場を離れることにした。

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