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21.グッバイ、隠祇島

「皆さん、お世話になりました。……いつか、また会える事を願ってますわ。それでは、お元気で」


 セリッサはそう言い残すと、隠祇(おぎ)島からアメリカ行きの船へ乗り込んでいく。


 《聖心臓(カディエータ)》に散々振り回されたあの一件の翌日。彼女は早々に故郷であるイギリスへと向けて出発するらしい。


 少しくらい休んでいけば――とも思ったが、この島の秘密を暴いた以上、彼女にとってこの島は用済みだ。隠れ家も失ってしまったし、長居する理由も残されていなかった。


 オカルト研究部の三人に神凪(かなぎ)上鳴(うわなき)間倉(まくら)も揃って、全員で手を振り、船が水平線の彼方へ消えるまで見送って。


 ……港に残された六人もまた他人事ではない。


「私たちの出発は明後日だけど……この島でやり残した事はないかしらぁ?」


 ふと、間倉が皆に向けて質問する。


「そうだね……。確かにこの島はもうあちこち走り回ったけれど、純粋に観光として楽しんだ訳ではないし、今日と明日は各々自由行動でいいんじゃないかな。最後に思い出も作っておきたいし」


 七枝が言う通り、確かに上鳴と間倉を除いた四人は、セリッサと共にこの島をあちこち回ったが――それはあくまで上鳴を助けるべく手がかりを探していたからに過ぎない。


 街にあるお店だったりには立ち寄ったことさえないし、束の間の休息日は少しくらい楽しんでしまっても良いだろう。


「それなら、私は家の整理もあるし、家で待ってるわぁー。観光ならこの島に来てから直ぐに済ませちゃったし、今更行きたいところもないしねぇ」


 三ヶ月も前からこの島で暮らしている間倉にとっては、そこまで目新しさもないのだろう。ここまでの都市に発展していく途中経過を眺めて来たうちの一人でもあるのだ。


 そんな間倉もついに、この島を出る事に決めた。理由は単純で、彼女もまたこの島で暮らす理由がなくなったからだ。


「……間倉先生は、また旅に?」

「そうでしょうねえ。魔力が豊富で、研究しやすいからこの場所で留まってただけだったんだけど。でも、もうこの島も魔力は他の土地と変わらないくらいの濃度にまで落ち着いちゃったし……」


 元々、間倉は錬金術師としての知識を深める為に世界各地を旅していた。


 錬金術師になってから、固定の住居を用意して一つの場所へ留まった経験といえば今回の隠祇島と、三年前まで稗槻(ひえづき)市で七枝に錬金術を教えていたときくらいか。

 

 魔力と錬金術の関係について、この島で研究を続けるのが一番手っ取り早いと判断したからこそ、彼女にしては珍しく一つの土地に留まっていただけであって、その理由さえ無くなってしまえば間倉はすぐにでも旅を再開するだろう。


 もっとも、こうして島を出ようとするのは彼女らだけではない。魔力を生み出し、この土地を豊かにしていた《聖心臓》が失われた今、この島はちょっとばかり発展した国とも呼べない、中途半端な場所でしかない。


 それに加えて、《聖心臓》に上鳴を取り込む事でさらに効果を増していた『ファンタジーを引き寄せる体質』も当然効果は切れている。……いや、彼がこの島にいる限りは多少の効果はあるのかもしれないが、そもそも彼だってこの島に留まるつもりはない。


 この島の歴史は細々と続いていくのだろうが、かつての繁栄はもう戻らないのだろう。そう考えるとどこか寂しさも感じられるのだった。

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