19.再会
「神凪さんっ! 大丈夫ですか!?」
「ま、まあ何とか……ね。流石のアタシも、ちょっと無茶をした自覚はあるけれど……」
黒いススを全身にかぶった赤髪の少女。力をすっかり使い切ってしまったせいか、彼女の武器でもある竜の手足はいつの間にかヒトの物へと戻り、真紅の翼はとうに消えていた。
処理が追いつかなくなった触手に対して、神凪は自分自身も巻き込む事を厭わずに、その拳を最大限まで炎上させ、向かってくる触手の全てを焼き尽くした。
それによって稼いだ時間で、なんとか《聖心臓》の防衛システムを停止させた訳だが――ボロボロになった神凪の姿を見て、セリッサは涙を浮かべながら。
「もう、無茶ですわよ……! ワタクシ、神凪さんが本当に死んでしまうかと……!」
セリッサは過去を視ることができても、変えることはできない。自分がもっと早く対処できていればという不甲斐なさと、自分自身をもっと大切にしてほしいという怒りが半々の、ごちゃ混ぜな感情にどうしていいか分からない。
「ごめんなさい、心配掛けちゃったわね。でももう大丈夫だから。それより――」
神凪が何とか立ち上がると、天井から一本の管で宙吊りになっている《聖心臓》を見つめる。
今ならあの強固なバリアに阻まれる事もなく、あの臓器を引き裂いて。中に取り込まれている、神凪にとって最愛の人を助け出す事ができるだろう。
――上鳴御削。彼が失踪してから半年間、とてつもなく長い時間に感じてしまった。いや、彼と一緒に居た時間が早く感じていただけなのかもしれないが。
「あの中に、閉じ込められているんですわよね。……神凪さん」
「ええ。……それじゃ、アタシが」
神凪は《聖心臓》の元へと歩きながら、かなり消耗しているため右手だけを竜の物へと変質させる。ただアレを引き裂くだけならば、右手だけで必要十分だ。
そして、彼女が軽くぴょんと飛ぶと――グギシャアアアアッ!!
肉を裂く音と共に、閉ざされていた《聖心臓》の壁が開く。
赤黒い液体と共に、流れ出てきたのは一人の男。彼女は当然、見間違うはずがない。
「……み、そぐ」
「……麗音」
神凪は震える唇をゆっくりと開いて、その名前を呼ぶ。
返ってきたのは、確かに自身の名前を呼ぶ、ずっと聞いていなかった、探し求めていた彼の声。
「――御削ッ! う、うう、会いたかった……うわあああああああああああああああんっ!!」
上鳴は、泣き崩れる神凪の背を、優しくさすってあげる。
今はただ、この島の問題とか、残る問題やらの全てを抜きにして。神凪は、彼の確かな温もりを感じているだけでとても幸せだった。
「ごめん、神凪。俺が約束を破ったばかりに」
「……バカ、覚えていてくれたんじゃない。アタシは世界なんかより、ずっと御削の方が大事なの。確かに色々と巻き込まれたりはしたけど、それを含めたあの日常が大好きなの。こんな気持ち、生まれて初めてだったんだからね。だから、その……今度はアタシの側から、二度と離れないで。約束」
「……ああ」