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18.白と黒の最終決戦

 天使としての力を振るう為に最適化された身体を持つ、天河一基(あまかわ いつき)

 あくまで普通の身体に、堕天使の力を宿しているだけの七枝蓬(ななえ よもぎ)


 互いが衝突すれば当然、天使側の方が遥かに有利なのは否めない。実際に発揮できる力の総量の差が大きすぎる。


 ……だが、彼は攻撃と防御、その両方に力のリソースを割かなければならない。


 一方の七枝は違う。


「――賢者の石っ!」


 もう一人の錬金術師が、傍らの深い黒、無であるからこそ無限の可能性を孕むその物質を材料として、瞬間的に空想の産物とさえされた赤色の石を生み出し、放り投げる。


 まもなく、賢者の石が触れた天使の砲撃を、一瞬にして硬質化させ、『金』へと変えた。


 そして、天使の放つ翼や剣といった物理的な攻撃は――。


「はああああああああああああああああッッ!!」


 桃色の魔法少女が、トレードカラーの魔法陣を展開し、その全てを受け止める。


 つまるところ、七枝自身が防御や回避といった自衛にリソースを割く必要がない。彼女とその身体の中に宿るツァトエルは、その力の全てを攻撃に回す事ができるのだ。


 力の総量では下回っていても、仮に攻撃へ全振りした七枝が、少しでも天使の防御力を上回る事――それが、天使を討ち滅ぼす為の最低条件だ。


 故に、七枝は。


「はあああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」


 漆黒の翼から、全てを無に置き換える《ベンテローグ》を放ち、それが天使に向けた第一の攻撃に。


 惜しくも避けられ、無へと置き換えられた周囲の物質から錬金術で七色の球体を次々と生み出し、再び発射するのを第二の攻撃に。


 それら一連の流れを同時進行でこなすことができる。やっている事それ自体は最初と変わらないが、その物量が変わるだけで天使にとっても脅威度は一気に跳ね上がる。


 ……シャワーのように次々と放たれる黒い砲撃と同時に襲い掛かる七色の雨。それらを天使は完全に避けきれていないのが何よりの証拠だった。


 このままではただ削られ続けてジリ貧だ。そこまで考えた天使、天河一基は渋々といった調子で。


「仕方がないか。……オレは言ったはずだ。ここはオレの戦場(フィールド)だって」


 天使が言い捨てると共に――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ! と大地が鳴動する。直後、周囲に生えていた木々、大小様々な岩石、地層の塊。しまいには神社の建物さえもが次々と浮かび上がり――彼の言った通りの『戦場』そのものが三人の立つ場所に向けて飛ばされる。


 大地という、どんな攻撃をも凌駕する圧倒的な質量に、手も足も出ないはずだった。しかし、三人の表情には不思議と焦りはない。


「頼むよ、二人ともッ! はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」


 七枝が黒い翼を頭上へと向けると、黒い砲撃二本がその場で衝突する。次第に巨大な黒塊を形成し――。


「はいっ! ここはわたしが――ッ!」


 続けて、巨大な質量の塊を比良坂が錬金術で手を加える。黒塊は、みるみるうちに赤い石へと姿を変えていき……。


「そして最後にウチがぶっ壊すっ! ――スウェート・ブロッサムッ!!」


 魔法少女の叫びと共に、右手のステッキの先からピンク色の砲撃が放たれる。


 七枝がツァトエルの力で生み出した材料で、比良坂が錬金した巨大な賢者の石を、許斐が一撃で粉砕する。


「これが、私たちの――」

「これが、わたしたちの――」

「これが、ウチらの――」


 砕かれた賢者の石の破片は、全方位に弾幕を形成して。

 

「「「集大成だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」」」


 降り注ぐ木々に岩、大地に建物の残骸――それらを全て、金へと変える。


 その場でボトリと落ちていく金。一方、三人を埋め尽くすはずだった圧倒的な質量は、全てとは言わずとも、十分避けられるまでの攻撃にまで落ち着いていた。


 それらを全て凌ぎきった三人のうち、七枝の視線は天使の姿を睨み付けていた。そして、


「終わりだよ、天使。散々私たちを引っ掻き回してくれて、まだお礼には足りないくらいだけどッ」


 七枝の放った黒いレーザーが、驚愕の表情を浮かべる天使の胸を撃ち抜くまでは一瞬だった。



 ***



 黒いレーザーの直撃を受けて、地面へ落とされた天使。苦痛に耐えながら何とか立ち上がろうとするも、それは黒い翼の先端を槍のようにして放たれた一撃によって止められる。


 こちらを見下ろす錬金術師を見て、彼は純粋なる疑問を口にする。


「――何故、天使である、オレが……お前たち人間と堕天使なんかに負けちまったってんだ……?」


 対する、黒い翼を携えた錬金術師は簡潔に答える。


「考えられるとするなら、天使がこの地球上の何よりも上に立つ存在――という勘違いが原因だよ。哀れな天使様」


 次の瞬間、七枝の放った黒い翼による無数の突きが、天使という存在そのもの、ひと欠片さえ残さずに容赦なく消し飛ばす。

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