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14.神社の奥より現れしは

「魔力の流れの根源がかなり近付いて来ましたが……」

「あれは、神社……でしょうか?」

「だと思うけど……」


 木々の奥に見えてきたのは、赤色の鳥居。日本ならかなり見馴れた――異国の地であるならば珍しい、そんな構造物だった。


 鳥居があるならば、ここは流石に神社なのだろうが。その奥から現れたのは、セリッサ以外の四人は知っている存在だった。特に神凪(かなぎ)に関しては、その姿も見たことがある。


「あの箱園紗々羅(はこぞの ささら)を倒すとは。わざわざオレが出るまでもないだろうとは思ってたんだがなー」


 二メートル近い身長に、獣のような金髪のオールバックが特徴の男だった。箱園紗々羅とは、おそらくさっきの巫女のことだろう。


「……天河(あまかわ)一基(いつき)


 そんなことよりもまず、神凪はその名を声に出してしまう。


 彼は紛れもない、彼女が探している人物――上鳴御削(うわなき みそぐ)に近く、最も関係しているであろう存在だからだ。


「ということは、あれが……『天使』なのですか?」

「うん。少なくとも、私たちが最後に見たのはあの姿じゃなくて、(さくら)が箱に封印していた状態のはずだったけど」

「まあ、箱だけ部室に残されてた時点で、そりゃそうだろうとは思ってたんだけどね」


 だが、天河一基――天使を封じていた箱は、上鳴が失踪したあの日、すっかり壊されてしまっていた。


「ま、ここまでやって来られたって事は、今更隠すつもりもねーか。お前たちのお察しの通り、上鳴はこの島にいる。それも、この神社の地下――隠祇(おぎ)島の()、《聖心臓(カディエータ)》の中に」

「……随分とあっさり答えてくれるのね」

「なに、せめてもの慈悲だよ。死ぬ前に答え合わせくらいはしておきたいだろー?」


 表情一つ動かさず、冷たく響く神凪の声に対して、天使はあまりに軽い調子でそう返す。


 戦う前から結果は決まっているとでも言いたげな天河の言葉に、すたりと前へ現れ、彼と目を合わせながら錬金術師、七枝(ななえ)は言う。


「そもそも、私の目的の一つは天使、お前を()()ことだよ。なんの対策も講じてきていない訳がないじゃないか。――最も、これは私が望む事ではなく、()()()に頼まれた事なのだけど――」


 言い終えた彼女の背中から現出したのは、黒よりも深い漆黒の――見ているだけで深い闇に飲まれてしまいそうな、巨大な翼だった。


 同時、その両翼から漆黒の砲撃が二本、天使に向けて放たれる。だが、不意を突いた程度では彼を葬り去るなど不可能らしい。天河が遅れて出した白い翼によって、それぞれ軽く受け止められてしまう。


「ッ!? 七枝さん、その翼って、まさか……」

(よもぎ)、いつの間に……。流石のウチも気が付かなかったよ」

「蓬先輩。それって、()()使()()()()()()()……()、ですか?」

「見ての通りだよ。私は天使を封印ではなく、確実に『殺す』という条件で、堕天使の力を借りた。人間である私たちでは、決して天使には届かないだろうけど――私が堕天使の力を行使できるとしたらどうかな?」


 天河の顔に、笑みが浮かぶ。


「ふっ、ははははははははははははは! 面白い事になってきたねえ。オレにとっても都合が良い。ツァトエル、お前との決着もそういやまだだったからな!」

『ハッ、決着だ? くッだらねえ。生憎俺は、俺の計画の邪魔になる奴を潰したいだけなんでね。オマエを楽しませてやるつもりは毛頭ねェんだわ』

「そりゃ寂しいねえ。……だが、それはあくまでお前がオレに圧勝できる前提の話だ。一応言っておくが、ここはオレの戦場(フィールド)だぜ?」


 言い合いを続ける天使と堕天使。その傍らで、堕天使と身体を共有する七枝が言う。


「私は勿論だけど、あと何人か加勢してくれると助かる。結局、堕天使の力があっても身体が私じゃ、天使に敵うかどうかは未知数だから。……櫻、(ふう)。オカルト研究部として、一緒に戦ってくれると嬉しいんだけど」

「当たり前だよ、蓬」

「はいっ、わたしで力になれるなら……!」


 このメンバーの中で、何人か選ぶとすれば二人が安牌だろう。同じオカルト研究部として、一緒に過ごした時間も長いのに加えて。


「神凪さんとセリッサさんは、神社の地下にある《聖心臓》とやらの場所に向かって。セリッサさんは戦闘経験も少ないし、どちらかといえば案内向き。そして、上鳴君を迎えに行くのは、神凪さんが一番適任だろうから」


 この神社の地下にある《聖心臓》。その中にいるという上鳴の居場所を、一番血眼になって探し求めていたのは神凪だ。とすれば、ここで先に向かうべきはやはり彼女しかいない。

 

「……分かったわ、ありがとう。セリッサさん、地下に続く道って分かるかしら?」

「ええ、魔力の根源が恐らくはそこなのでしょう。流れが続いている限り、案内はできるかと……」


 セリッサを先頭に、再び走り出した二人。そこに、白い翼を携えた天使がひと飛び、一気に距離を詰める。


「悪いが、ここから先へ通す訳にはいかなくてね――ッ!?」


 二本の翼が槍のようにして放たれた攻撃は、対極的な漆黒の翼が盾のようになって容易く受け止められてしまう。


「さあ、行くんだっ!」

「七枝さん、助かったわ! セリッサさん、引き続き案内をお願い!」

「お任せを!」


 白い翼の攻撃を七枝が受け止めるその横を、二人は全力で駆けていく。

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