11.復活の名探偵
「――赤鬼、青鬼、黒鬼――牛鬼、馬頭、夜叉――以上、百鬼の力よ、身中巡る悪物を焼き払えッ!」
間倉が一度世話になったという診療所まで、倒れて意識を失ったセリッサを急ぎ連れて行くと――状態をひと目見た、銀髪でおしとやかな雰囲気を醸し出す妙齢の女性によって、セリッサはすぐにベッドの上に寝かされて。
治癒術師を名乗るその女性が、早速治療を始めてくれている。
といっても、一般的にイメージする治療とは全くもって異なる。どちらかといえば、『呪文を唱えている』……と言った方が、表現としては正しいように思える。
長々と何かの名前を呼び続けた治癒術師の女性が、最後にそう言い切ると、緊張の糸が解けたように女性は表情を緩めて。
「はい、これで治癒は完了です。……と言っても、治したというよりは、取り除いたという方が合っているんですけど」
「取り除いた……?」
疑問に思った七枝がそう返す。口に出したのは彼女にしろ、恐らくこの場の誰もが気になったことではあるのだが。
「彼女の身体には、これといって悪い所は見当たりませんでした。ただ、『魔力』が外界から体内に、強引に注がれているようで。それが体内で暴走しているようでした。高熱と、意識を失ってしまった原因はそれかと」
「魔力が強引に、ねえ……。まさかと思うけど」
強引に――となれば、人為的要因としか考えられない。神凪は昨日、セリッサの話していた内容を思い出す。
『この島について余計な詮索をするな。これ以上続けるというのならば「王」直々に罰が下るだろう』
燃やされた隠れ家へ、過去を視るセリッサに向けて直接的に残されていたメッセージだ。もし、彼女が誰かに狙われるとなれば、恐らくはこれだろう。
「体内の魔力は分解しましたので、すぐに目を覚ますかと思いますが……根本的な原因の解決はできておりません。つまり、彼女の身体には今も外から魔力が入り込んでいる状態です。今から、あと八時間もすればまた同じ症状に見舞われるかと思います」
「そうですか。だとしたら――」
そんな七枝の言葉に続くのは、思いもよらぬ声だった。
「――解き明かさなくてはなりませんわね。ワタクシを狙う敵を。そして、この島の秘密も全て」
続けたのは他でもない。さっきまで意識を失い、寝かされていたはずの探偵。セリッサ・エストコルト、その人だった。
あまりに突然だったので、一同、驚きと安堵が混じった声を上げる。だが、セリッサは続けて。
「途中からですが、お話は聞かせてもらっておりました。つまり、ワタクシが倒れていた際に見たあの『霧』の正体は魔力だったと。……そうなれば、全ての辻褄が合いますわね」
起きて早々、周りを置いてけぼりにしていく勢いは健在だった。そして、最後にセリッサは断言する。
「ワタクシ、『魔力』という概念を完全に理解しました。あの過去――隠れ家が燃やされた瞬間もきっと、視えるようになっているハズですわ」
あまりの急展開に、呆気に取られながらも七枝は。
「そういう事なら。またセリッサさんが倒れる前に、急がないといけないね」
「その……お身体は大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、バッチリです。こうしてはいられません。皆さん、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。それでは向かうとしましょうか!」
病室のベッドから飛び降り、準備万端と言わんばかりの彼女に、治癒術師の女性が心配そうな表情で言う。
「今は症状も出ていないでしょうけど、今も魔力は体内を少しずつ蝕んでいます。事情はどうあれ、とにかく無理はなさらずに。少しでも身体に異変を感じたらまたいらっしゃってください」
「ええ、分かっております。……ありがとうございました」
そう言い残して、一同は診療所を後にする。