幕間 落ちゆく意識の中で
(……これは……夢、ですの?)
朦朧とした意識の中で、セリッサ・エストコルトは、ふわりと身体が浮かんでいるような感覚を覚える。
それが仮に空や深海なんかであれば、さぞかし気持ちの良い夢だっただろう。しかし、この夢は違う。
(赤? いえ、青……でもなく黄色、黒? 白でもないですし、何なんですの、これ……?)
周囲から段々と、意識を蝕んでいくかのように迫りくるのは、どの色としても捉えることができない――不思議な霧だった。
夢ではあるが、これに飲まれてしまえばマズいと自身の直感が告げている。何かの暗喩か、はたまた、本当に何かが自分を蝕もうとしているのか。どちらにせよ、このまま黙って飲み込まれるのを待っている訳にはいかない。
慌てて、必死に振り払おうとするも、そもそもどうやって振り払えば良いのかも分からない。この身で直接干渉できない意識の中で、一体どうやって迫りくる霧を遠ざけろというのか。
(そもそも、この霧……ワタクシがこの色だと認識すれば、認識した色とは別の物に変わっている……ような。つまり、これはワタクシの意識によって変容している?)
そんな仕組みは理解した。が、分かったところでこちらにはどうしようもない。ただ、あの変容する霧によって意識が飲みこまれるのを待つことしかできない。
やがて、得体の知れない霧が意識全体へと広がっていくと、予想通りと言うべきか――だんだんと意識が遠のいていく。
完全に意識が落ちる直前、ふとセリッサは昨日の夜した会話を思い出す。『魔力の人それぞれの扱い方』……だったか。
何故こんなことを今になって思い出したのかは分からない。
残った謎を解き終える前に、こうして眠ってしまいそうになっている自分への未練からか。それとも、無意識にこの内容を思い出したことにさえ、何かしらの理由があるとしたら?
そこまで考えついた所で、セリッサの意識はすっかりシャットアウトしてしまう。