9.魔力対談
「ええ、アタシから? というか、別にアタシは魔法使いでも何でもないんだけど」
「それでも貴重な一意見ですから、聞かせていただけると、とても助かるのですが……」
そうまで言われれば、流石の神凪も断るには断れないらしい。
「でも、本当に大したことは喋れないわよ?」
前置いたうえで、神凪は続ける。
「アタシにとって、魔力ってのはまあ……魔法を使う時はもちろん、竜の力を解放する時にも必要な『トリガー』ってイメージね。魔法って言ってもそんな大それた物ではないし、竜の力だって結局はアタシの血を覚醒めさせているだけにすぎないけど」
「なるほど、トリガー……と。確かに、ワタクシがイメージしていた『魔力』とは全然違いますわね」
「逆に、セリッサさんはどんな物を想像していたの?」
「そうですわね。素人ながら考えたのはやはり、力そのものでしょうか。仮に、魔法で炎を出すとするならば、魔力を炎へと変えて――のようなイメージですが……」
実際に魔法を使ったことがない人ならば、誰もが最初はそんな考えに至るだろう。だが、万人がイメージするであろう魔力とはまた違うのだ。
……セリッサの一意見にそんな感想を抱いた神凪とは対極に、その意見に同意する者もいた。
「ウチはセリッサさんの考えに近いかも。魔法で攻撃をするときは、近くにある魔力を集めて――バーンっ! ってカンジかなー。ほとんど感覚で使ってるから、言葉にしてって言われたら難しいんだけどさ」
「うん、なんだか櫻らしい」
隣の錬金術師、七枝がうんうんと頷いている。
「そういう櫻は? 錬金術の時に魔力は使ってるんだよね?」
「まあね。私は魔力を『道具』として使っているよ」
「道具……ですか?」
不可解そうに言うのは、同じ錬金術師であるはずの比良坂だった。
「うん。魔力を使って、入れた材料を変質させて目的の物を生み出していく感覚かな」
「そうだったんですか? わたしは『パイプ』のような物だと思ってました」
「……それこそ不可解なんだけど」
お互い、疑問に思いつつも比良坂が説明する。
「材料を一度分解して、それを目的の形につなぎ合わせていくイメージです。まさか、同じ錬金術でも考え方が違うとは思いませんでしたけど……でしたら、間倉さんはどうなんですか?」
「私? そうねぇ、普段は魔力も『材料』の一つだと思って調合してるわよ。ここはせっかく魔力が豊富な土地だしって思って、最近は錬金術に対する魔力の活用とかを研究しているけれど」
だが、同じ錬金術師であってもここまで意見が割れるとは思ってもみなかった。三人、不思議そうに見つめ合っている。
「魔力について理解を深めるつもりが、さらにややこしい事になってしまいましたわね……」
メモを取りつつ話を聞いていたセリッサが、思わず頭を抱えてしまう。ここにいる、魔力を扱う五人全員が、それぞれ違うことを言っているのだから仕方がない。