3.上陸した五人
やがて船が港に着き、『条件』を満たしていた乗客である五人が降りると、その場で光の粒となって船自体が消えてしまった。
「え、えええええっ!?」
誰かが海に落ちる姿はないので、もう他に人は乗っていなかったのだろう。となると船の操縦は誰がしていたんだろう? だとか、色々と疑問が湧き上がってきて、比良坂は思わず驚嘆の声を上げてしまう。
他の三人も、彼女ほどではないものの当然物珍しい目でその様子を見ていたが、この島が初めてではないらしいセリッサ・エストコルトは冷静に。
「この程度のコトで驚いていては、ここではキリがありませんよ?」
「そうね……。流石、あの天使が『ファンタジー』を束ねるとか言ってただけはあるわ」
港とその周辺はまだ落ち着いた雰囲気の場所ではあるが、少し進めばすぐに高層ビル群の織りなす都市部が待っている。その辺りはやはり、小さな島であるが故だろう。
「ここから見た感じじゃ、普通の街にしか見えないけど……」
「そもそも、これほどまでに発展した都市を、どれだけ私たちが探しても見つけられなかったという時点でも十分、異質な島ではあるけれど」
「うん、それは言えてるかも」
確かにこの島には結界が張られていたり、他にも知らないだけで様々な方法で外界との繋がりを断っているのだろう。
だが、それでもこの情報化社会である今の時代で、ここまでその存在を隠し通すのは難しい。そもそも興味がなくて誰も気づかないならともかく、血眼になって探していた四人でさえ見つけられなかったのだから。
「入るのに、手続きとかはないの?」
ふと疑問に思った神凪が、隣の探偵、セリッサへと訊く。
「特にありませんよ。この島を守る結界を通るコト、それ自体が入国審査を兼ねているようです」
「ふうん。その為の『条件』ってワケね」
島に入るに相応しくない人物は、その条件でふるい落とす。さっきのクルーズ船に乗っていた他の観光客は、やはりこの島に入るには値しなかったらしい。そうとは知らずにきっと今も、優雅なクルージングを楽しんでいるのだろうか。
「まあ、外観だけは取り繕っているもののまだまだ発展途上、というイメージではありますわね。……たった半年でここまでの成長を遂げた、と考えれば、それでも異常、としか言い表せませんが」
「半年前……」
神凪にとっては、嫌な記憶の蘇る時期だった。
天使と共に上鳴が消えたのがその頃で、この島の発展が急速に始まったらしい半年前と、彼の失踪は、きっと無関係ではない。
「というか、セリッサさんは何故アタシたちに協力してくれようと?」
「そもそも、ワタクシがこの島に訪れているのは、この島の『秘密』を暴こうとしているからに過ぎませんの。……最初は興味本位でこの島に訪れただけでしたが、調べれば調べるほど不可解な点が浮かび上がってきまして」
『特異な能力、知識を有している』という条件を満たした者だけが入れる、謎の都市。探偵という職業柄、持ち合わせの探究心からつい気になってしまうのも当然だろう。
そして、調べれば調べるほどこの島の秘密という深みへとハマってしまった――というのは安易に想像がつく。
「そこで現れたのが貴方がたでして。話を聞いた限り、きっと島の秘密にも一歩近づけるのではないか、と。あんな調子の良い事を言って、結局は自分の為でもあったのですが……」
「善意が百パーセントです、なんて言われるよりはよっぽど信用できるわね。随分とあっさり協力してくれるって言うから、少し不審には思ってたんだけど」
初対面の相手に限れば、利害の一致ほど相手を信用するに足る要素はない。もちろん例外だってあることも、神凪はその身をもって知ってはいるが。
「ああ、そうでした。これから行動を共にするというのにも関わらずワタクシ、皆さんの名前を伺っていませんでした」
「あ、そういえばすっかり忘れちゃってたわね。アタシは神凪麗音。よろしく」
そんな神凪に釣られてか、他の三人も続けて自己紹介を始める。
「これは失礼。私は七枝蓬。錬金術師をやっているよ」
「あっ、わたしも錬金術師で、比良坂楓って言います!」
「ウチは許斐櫻、魔法少女だよっ」
「なんだか締まりも悪いですので、ワタクシも一応もう一度名乗っておくとしましょう。セリッサ・エストコルト。探偵ですのっ!」
うっかり忘れていた自己紹介を軽く交わしあった一同。
「それでは、時間は待ってくれませんし、早速向かいますわよ!」
早足で、すたりすたりと先を行くセリッサを追って、四人も連なって歩いていくが……その中の一人、神凪がふと、疑問を口にしてしまう。
「……何処へ?」