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1.クルージングの船上にて

「うわあーっ、すっごくキレイーっ!」

「そうね……。どうせただの海でしょって侮っていたけど、想像以上だったわ」


 どこを見ても一面の大海原で、降りそそぐ日差しが、水面に無数の輝きを生み出している。


 夏は暑くて冬は寒い、両極端な日本とは違って、夏でも暑すぎず寒すぎない、絶妙に心地よい暖かさも相まってか最高のクルージング日和だった。


 一方の錬金術師コンビはといえば、二人して全く同じ体勢でうずくまり、何やら(うめ)き声を上げていた。


「うっ、これはヤバイ……出る」

「だ、だめですよ(よもぎ)先輩ぃ……、吐いたらま、負けですっ……うええ」


 苦悶の表情で、絶景を堪能するもう二人に向けて助けを求めてはいるが、船酔いなんて当人が気合で乗り切るほかにどうしようもないのだ。


「揃いも揃って、錬金術師は船酔いに弱いのかしら……」

「っていうか二人とも、酔い止めとか持ってこなかったの?」

「いや……、私、他の乗り物では酔ったことは、うっ、マズイなこれ」

「わ、わたしもですよ……」


 確かに船は車なんかよりも大きく揺れるので、その分酔いやすいのかもしれない。だが、主目的ではないにせよ、この絶景を万全の状態で堪能できないのはやはり勿体ない。このクルージングの参加費だってもちろん、タダではないのだから。


「ああー、もうこりゃ、一旦出しちゃった方が楽になるんじゃない?」

「いいや、吐いたら負けだよ……」

「です、ね……」

「……アンタたち、いったい何と競ってるのよ」


 ともあれ、ここまで特にこれといった大きいトラブルもなく、楽しい組と苦しい組で半々ではあるが――目的のクルージングまでなんとか辿り着いた。


 ……だが、このままただのクルージングで終わってもらっては困るのだ。


 その瞬間は、なんの前触れもなく訪れた。


 多くの観光客でガヤガヤとしていた船上が、突如。あまりにも不自然な静寂へと変わる。


 即座に警戒し、辺りを見回して、一足先に今の状況を把握した神凪(かなぎ)は、思わず声に出してしまう。


「人が、()()()?」


 さっきまで船の甲板あたりで景色を眺めたり、テーブル席でお菓子を嗜んでいたりと、各々自由な時間を楽しんでいたはずの乗客たちが、一人残らず消えていた。


「なるほど。『条件』を満たしている私たちだけがここに残っている、という事かな」


 突然の出来事に、すっかり酔いが飛んでいった七枝(ななえ)は冷静にそう分析する。


隠祇(おぎ)島に入るための条件ってやつ? でも、そうだとしたら、他のみんなはどうなっちゃったの? まさか行方不明になって、海の藻屑(もくず)に……」

「でも、このツアーって定期的に開催されているんですよね? その度に乗客が消えていたら、きっと大ニュースになってるんじゃ……」

「というか、ここってそもそも船や飛行機が消えるオカルト話がある場所よね? なんだか急に寒気がしてきたわ……」


 ああでもない、こうでもないと議論を交わしていると、それを見かねてか高く通るような笑い声と共に、一人の少女がこちらへ靴をこつこつ鳴らしながら歩いてくる。


「あらっ、あらあらあら。やけに騒がしいと思いきや、隠祇島は初めての方々でいらっしゃいますの?」


 上品なドレスを身にまとい、金色のツインテールを振りまきながらやってきた、金色の眼がキラリと光る彼女。まさにお嬢様オーラの溢れる、どこか眩しい――そんな少女だった。


「……その口ぶりからすると、この船は隠祇島行きで間違いないのかな」

「ええ、ええ、そうですわよ。隠祇島の周りには結界が張り巡らされているらしくてですね。それが『魔の三角海域』の正体だと分かった際にはワタクシ、とてつもない衝撃を――」

「なるほど。みんな、どうやらこの船はちゃんと隠祇島に向かっているらしい」


 結論だけ聞くと、七枝は長々と話し始める金髪ツインテールの彼女をスルーしながらそう告げる。


「ちょっ、ワタクシの話、最後まで聞きなさいよおっ!」

「ああ、何だか長くなりそうだったからね。……ところで、『条件』を満たしているという事は、君もただ者じゃない――という訳かな」

「ええ、いかにも。ワタクシはセリッサ・エストコルト。探偵ですのっ」


 そう名乗る彼女であったが、良い所のお嬢様っぼい、少々派手な見た目からはとても……探偵には見えなかった。


 それに、探偵というだけではこの船に乗っている事の説明にはならない。隠祇島に入る為の条件――『特異な能力、知識を有していること』を満たしているとは思えない。確かに探偵も、一般的には珍しい職業ではあるのだが、条件を満たせるほどかと言われればそうでもない。


 疑惑の視線を向ける四人に対して、セリッサと名乗った金髪ツインテールの少女は。


「ま、ワタクシにとって探偵は天職ですのよ? 何せ、()()()が使えますからね」

「へえ、なるほど。それで隠祇島に。よろしく、セリッサ」

「反応ワルっ!? ちょ、()()()ですのよ!?」

「話し始めたら長くなりそうだったし、余計な事は言わない方が良いかと思ってね。それに、この船に乗り合わせてる時点で私たちも()()だし」

「あ、アナタ、さっきから随分と失礼な……ッ」


 怒りを通り越して若干引き気味のセリッサに向けて、七枝の隣に立つ魔法少女、許斐(このみ)が不憫に思ったのか問いを投げかける。


「ところでセリッサさんの超能力って?」

「よくぞ聞いてくれましたねっ! そう、ワタクシの能力。それはズバリ、『過去視』ですッ!」

「過去視? それって……」


 読んで文字の如く、だろう。すっかり気分を良くした彼女を横目に、七枝は小声で三人に向けて。


(……その力、上鳴御削(うわなき みそぐ)を探すのに有用かもしれない。セリッサを、是非とも仲間に引き入れよう)


 『任せといて』――と言わんばかりに、許斐が軽く目配せする。

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